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いちについて、よーい
ピーッ
ヒュンと小さな影がひとつ飛び出した。
一体誰に似たのか瞬発力は学年で1番だ。
決して体は大きくはないけれど、目標に向かうコミット力とプレッシャーに強いところは母親から譲り受けた。
「沙菜ー!ゴーゴー!!いいよ、いいよー!そのまままっすぐー!!」
「……わー、すごい」
綾乃が全力で応援する隣で未玖が棒読みで呆けている。雅は少しだけ居心地が悪かった。
怜空の頑張りを台無しにするぐらい圧倒的な走りを見せる我が娘。
その目は獲物を狙うハイエナのよう。
顎を引き腕を大きく振って一生懸命地面を蹴り上げた。
「……沙菜はいったい何を目指すんだ?」
まるでアスリート。そのフォームがもう幼稚園児じゃない。梓はそんな沙菜を見て苦笑している。
ちなみに、沙菜に走り方を教えたのは綾乃の実家の面々である。主に綾乃の兄の子達に夏樹と佑月も加わった。盆正月とみんなで集まるたびに大騒ぎして1番末っ子の沙菜を可愛がりながら『走り方』も含めて色々教えたのだ。
沙菜は可愛がられてはいるものの、1番小さい。つまり、いつも何をするのも1番出来ない。それは仕方ないのだが、負けず嫌いの母の血が濃いせいか、沙菜は悔しくてたまらない。
だからここで少しだけ発散するのだ。
年上のお兄さんお姉さんには勝てないけれど、同級生なら勝てる。
『速い、速い、はやーい!!』
二位の子が可哀想なほど引き離された。
決して遅いわけではないと思う。
だけど、沙菜は初めから最後まで1番で、キラキラと眩しい笑顔でゴールテープを切ったのだった。
「おすしーー!!」
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