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凌と未玖は救護用テントに向かった。
怜空が先生に連れられていくのを見ていた。
幸い子守はいるので、瑠莉は梓に預けたまま。沙菜の勇姿をしっかり見守って、反対側のテントまで夫婦そろってやってきた。
「怜空」
怜空はめそっと俯いていた。
擦りむいた膝に砂が入っていないか先生に診てもらっていたらしい。
だけど、凌が呼ぶやいなや、ミニチュアサイズの同じ顔がふにゃんと情けない顔になる。
つぶらな瞳がキラキラと輝き、すぐに溢れ返ってダムが崩壊した。
「……っ、ぅわーーーんっ」
いくら成長したといえど、まだまだ小さな手だ。その手が甘えるように凌に伸びてきた。
先生が「もう大丈夫ですよ」と苦笑しながら離れていく。ちいさな膝小僧には剥がれにくいように大きめの傷テープが貼られていた。
幸い少し擦りむいた程度。手のひらも少し擦りむいたくらいでヒリヒリするだけらしい。
血がでたのは可愛い膝小僧だけ。説明を受けて二人はホッとした。
凌は泣きながら自分を探す息子に眉を下げる。甘えてくれるのが嬉しくてにニヤける口元を元には戻せない。
「……顔」
未玖がポソっと呟いたが、司会のマイクの声にかき消されてしまった。
「痛かったナー。でも最後まで走って偉かったナ」
ヨシヨシと凌は愛息の頭を撫でながら震える身体を小さく揺らす。
怜空はグスグスと鼻を鳴らしながらぎゅっと凌にしがみついた。
真っ白の体操服が少し汚れている。ちょっと走っただけなのに汗びっしょりだ。
未玖は旦那にピッタリくっつく息子の勲章を数えてほくそ笑むのだった。
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