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「さな、いちばんだったよーー!!」
退場門からお行儀良く出てきた娘は、真面目スイッチが切れたように両親の元に駆け寄ってきた。
見てた?見てた?と目をキラキラさせて沙菜は綾乃に抱きつく。
「すごく速かったわ」
「パパ、見てた?」
綾乃は沙菜のぺったり張り付いた前髪を整えながら笑いかける。満足そうに頷く娘はぐるんと首を横にして父親を見上げた。
「見てたよ。すごかったね」
「れんしゅーのせいか、でた!」
やった!と喜ぶ娘は母親から父親に移動する。母の腰に回した短い腕を解くと、少し助走をつけてステップを踏んだ。んしょ、と軽く膝を曲げて父親に飛びつく。
それを受け取るように雅も身体を沈めて飛び上がってくるタイミングで受け入れる。
平均より少し背の小さな娘だが、すくすく元気いっぱいに成長している。
「じいじとばあばに自慢しないとな」
「うん。それでね、おもちゃかってもらうの」
「おもちゃ?」
「うん、しるばにあ」
沙菜の言葉に雅は苦笑する。
両家の両親はそれはそれはもう沙菜に激甘だった。特に木下家は、雅の姉が遠くにいるためあまり孫に会えない。その点雅に関しては車で一時間半という距離。目と鼻の先だ。
しょっちゅう家に遊びに来て、甘やかすだけ甘やかす迷惑きまわりない祖父母になりつつある。
「沙菜、皆のところに行っておいで」
「うん!パパおりる」
「はいはい」
「りっくんだいじょうぶかな」
「大丈夫よ」
「つーとたまちゃんはしる?」
「次走るからちゃんと応援するのよ」
雅からいそいそと降りた沙菜は聞きたいことだけ聞くと慌てて皆の元に走っていく。
その様子を見ていた梓は顔を背けて笑いを堪えた。
「そっくり」
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