楽しい運動会

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 「おーっ!椿すげえじゃん」  「うん!はやいはやいっ」  木下夫妻が声をあげて応援してくれる中、九条夫妻はただ静かに息子の勇姿を見守っていた。  玲はチラリと梓を見上げて口元を緩める。  梓の目はとても優しく穏やかだった。  椿が軽やかにゴールテープを切った時は、自然と拍手をしていた梓。  その表情はまさに父親のそれで、そんな梓を見た雅も綾乃もとても優しい目を向けた。  彼らは梓の二十代の頃を知っている。特に雅に関しては梓ともう二十年以上の付き合いだ。  当時の自分ではきっと考えられないだろう。  梓がこんなにも慈しんだ表情をするなんて想像もつかないと思う。  「次、環だね」  「あぁ」  「たま、緊張してなきゃいいけど」  兄弟であり、ライバル。一番の味方だけど一番負けたくない相手。それが環にとって椿だった。もちろんそれは椿にとっても同じこと。  「力みすぎなきゃいいが」  「そうね」  玲は苦笑する。  きっと環は「自分も一番」と狙うんだろう。  順位なんて関係ない。  ただ、ゴールすることが大切なのに。  玲はそう思うも言葉にしたことはない。  ひとつは、競争心を持つことの大切さを知って欲しいため。  もうひとつは目標に向かう姿勢を早くから身につけてほしいから。  「諦めなきゃいいわ」  諦めなければ歩いてもゴールテープは切れる。玲は小さく微笑むと、スタート地点に並ぶ息子の姿を見守るのだった。    
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