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『ぼくがいちばんになったら、パパうれしい?』
公園からの帰り道。隣を歩く父親に何気なく訊ねた。掴んだ右手をぶらぶらさせながら、きっと『あぁ、うれしいよ』と答えてくれると期待した。
だが、その期待は見事に外れてしまった。
父親は少し悩んだ後、表情を和らげた。
『うれしくない、わけではないけど。どうかな』
え、どうして?と環は思った。
さっき教えてもらった、かけっこのコツを本番でうまくできれば一番を取れると思った。
それに、教えてもらったおかげで一番になれたら、パパも嬉しいと思う。
そう、思ったのに。
『環が一生懸命、諦めずに走ったら順位なんて何番でもいいんだ』
父はひとつ付け加える。
それに答えたのは、環とは反対側で父の手を繋ぐ兄の椿だ。
『よんい、でもいいの?』
『あぁ。転けても、つまずいても、二番でも三番でもいいんだ。椿も環も一生懸命走ったらそれでいい。ちゃんと、ゴールすることに意味があるんだ』
父はそういうと、繋いだ手を解いて頭を撫でてくれた。少しだけ照れ臭くて、でも嬉しかった。
環はそのことを思い出しながら少し緊張気味にスタートラインに立った。
いちについて、
パパはなんばんでもいいっていった。
きっとなんばんでも「がんばったね」ってほめてくれる。
よーい
でも、つぅはいちばんだった。
まけたくない。
ぼくも、いちばん、とる。
ピッ!
笛の音と同時に、環は一歩踏み出したのだった。
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