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「やっぱり、年長さん大きいね」
「うん。この次がすずわりか」
木下夫妻がプログラムを眺めながら、年長組のかけっこを見ていた。
沙菜は同年代でも小さな方だが、やはり幼い時の二年はとても大きい。
「あと二年で少しは伸びるかしら」
「いや、もうずっとこのままでいい」
雅は真剣に思う。ずーっとおしゃまでちょっと天然で空気の読めない溌剌とした娘でいて欲しい、と。できればこのまま四歳児でいてくれ、と。
「無理なこと言わないで」
「いいじゃん、ちょっとぐらい!夢を壊さないでよ!」
木下夫妻がどうでも良い話をしていると、そこへ香月夫妻が戻ってきた。どうやら怜空の様子を救護テントに覗きに行き、落ち着いた怜空を先生の元に届けたらしい。
「環、惜しかったナー」
「悔しかっただろうね」
「あんなの反則よ!五歳だからって許しちゃ駄目なんだから」
環は結果二位に終わった。
と言っても、一位の子が環の体操服を後ろから掴んだのだ。
ほんの一瞬で、相手もハッとした顔をしたので悪気はなかったのだろう。
だけど、環はそれに驚いて結果二位になった。
ちなみに九条夫妻は『暑い』と言って仲良くテントに戻っている。
ブーブー文句を言う綾乃の隣で当事者の親は苦笑いするだけ。
ちょっと納得いかない綾乃だが、幼稚園側でなんらかの対処がされれば問題ない、と梓は言った。そしてきっと落ち込んでいるのだろう、息子をどうやって宥めようかとすぐに切り替えるのだった。
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