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九条夫妻が環を宥めていたその頃。
「ハハハ!ホームランじゃねぇカ!」
年少組のすずわりが白熱していた。
そして、沙菜の大暴投に凌が爆笑している。
凌が笑うせいで、抱っこされた瑠莉まで「きゃきゃきゃ!」と笑った。
そんな凌を横目に雅は苦笑する。
「四歳児にそれを求めたらだめじゃん」
「りっくんはさっきから結構貢献してるわよ」
「へなちょこボールだけどね」
綾乃の言葉に未玖が補足する。
沙菜が白で怜空は赤だ。どうやら赤の方が有利らしい。
「沙菜がノーコンすぎる」
「飛距離は十分ね」
「遠投なら一番だと思う」
やあ!と小さな手から放たれる白いボールは的を越えて飛んでいく。特大のホームラン。
ただ、それが的に当たれば一発逆転サヨナラホームランだ。
「ここ外したら負けだ、沙菜」
「雅は肝心なところ弱いからねぇ」
「やめろ」
きっと沙菜もそうかもしれない。
雅は綾乃にそう言われたように聞こえたものの、綾乃似の娘だ。きっと大丈夫、うん。
だが、木下夫妻の応援虚しく怜空達赤組の勝利だった。怜空は嬉しそうに退場門から出てくる。
一方沙菜は「らいねんは、かとうね!」と周囲の友人達と和気藹々、今から気合い十分に出てきた。
これから休憩なのに、まるで戦場に赴くような闘志だ。だがその表情はすぐにパッと切り替わり、美味しそうに水筒のお茶を飲むのだった。
「……沙菜が楽しそう」
「なんつーか、さすが結城チャンの娘」
「本当に。綾乃そっくりすぎるんだよ」
パパ二人の視線は天真爛漫な沙菜に釘付けだった。
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