もしも梓が猫だったら

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 ………とても窮屈な夢を見た気がした。  何故か玲を抱きしめることができなくて、他の男にとられそうになるのをただ指を咥えて見ることしかできない、というもどかしい夢だった。  それが夢であって良かったと心底安堵したのは、腕の中で少し背中を丸めて眠る愛しい彼女の温もりがあるからだろう。  少し肌寒くなった季節のせいか、玲は自分からくっついてきてくれる。  そんな彼女が可愛くて愛おしくて、ついつい頬が綻んで口元がにやけてしまう。  「……離さないからな」  口ではこんなことを言ってるのに、表情は様にならないぐらい崩れている自信がある。  玲に見られていないことをいいことにだらしない顔できっと彼女を見つめているはずだ。  時折凌や雅に言われる「その顔やめろ」という危ない顔。  でも、こんな顔を俺にさせることができるのはきっとこの世でたったひとり。彼女だけだ。  「愛してるよ」  本当は今すぐにでも籍を入れて自分のものにしたい。だが、彼女の可愛い我儘を訊いてやりたい自分もいる。  ただ、これだけは言える。  猫じゃなく人間でよかった、と。  彼女に出逢えてよかった、と。  こうして抱きしめて離さないように囲い込める今が俺にとって何よりも大切で愛おしい毎日だ。  彼女の温もりに導かれるまま、次第に重くなる瞼を可笑しく思いながら目を閉じたのだった。    
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