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夕方の東名高速を車は快調に進んでいる。しかし潔く流れていく窓の景色とは裏腹に、車内の空気はどんよりと重苦しかった。
「本当に、ごめんなさい」
もう何度目か分からない台詞を、助手席の妻が口にする。
「だから歩実のせいじゃないって言ってるだろ。芽依だって無事だったんだし、あまり気にするな」
バッグミラーをチラリとやると、後部座席のチャイルドシートの芽依は寝息を立てている。迎えにいった時の騒ぎが嘘だったかのような穏やかな寝顔であるが、泣き腫らした目元がその余韻を感じさせる。
「なんだか自信なくなっちゃった。やっぱりこの歳で初めての子供なんて持つものじゃなかったのかも」
頭を抱える歩実。気丈な彼女がここまでになるのは初めて見るかもしれない。
二十代で籍を入れた我々であったが、お互いに仕事熱心な事もあって、子供を作ろうとは考えていなかった。
歩実がそんな方針の転向を口にしたのは三十歳半ばに差し掛かった頃だ。今後の人生を彼女なりに見つめ直した結果という事だった。
私としても、子供がまるで欲しくなかったわけではない。若い頃に比べ、金銭的、将来的な安定も出来ていたし、育児や家事は彼女が仕事を辞めて引き受けてくれるというから、反対する理由はなかった。
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