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カツカツカツ……
ハイヒールの足音を響かせながら、30代だと思われる女性がオフィスに入ってきた。
小柄ながら、派手目のメイクに綺麗に巻かれたロングヘアだから、人目をひく。
誰だろう?
来客なんて滅多にない部署だから、みんな不思議そうにその女性を眺める。
私は、応対するためにスッと立ち上がってその女性のところへと向かった。
「いらっしゃいませ、こんにちは。本日はどのようなご用向きでございましたでしょう?」
私は、笑顔で尋ねる。
「あなたが堀江 美香さん?」
女性は、なぜか名乗ってもいない私の名前を呼んで睨みつけてきた。
何?
明らかな敵意を前に、私は、一瞬たじろいだけれど、それでも極力平静を装って応対を続ける。
「はい、堀江は私ですが、どういったご用件でしょう?」
私は相手の神経を逆撫でしないように、出来るだけ丁寧に尋ねる。
すると、女性はバッグに手を入れたかと思うと中から1通の茶封筒を取り出した。
私は特に何も考えることなく、その手元を目で追う。
すると、女性は、その茶封筒に手を入れながら、視線を上げて、私を睨みつけてくる。
「どういった? 自分の胸に手を当てて考えてみなさいよ!」
そう声を荒げた女性は、そのまま封筒の中身を取り出すと、私に投げつけて来た。
「いたっ」
投げつけられたものの角が頬をかすめ、かすかな痛みが走る。
私の頬をかすめたそれらは、オフィス内に散乱する。
近くにいた同僚たちが慌てて立ち上がり、それらをかき集めると共に、直属の上司である係長が、私を庇うように私と女性の間に入った。
「こんなところではなんですので、どうぞこちらへ」
係長は女性を会議室へと案内しようと促す。
「堀江さんは会議室にお茶をお持ちして!」
そう言われて、ようやく我に返った私は、ペコリと頭を下げると給湯室へと向かおうと、きびすを返した。
「待ちなさいよ! 逃げる気!?」
逃げるも何も、なんでこんなに敵意を向けられているのか分からない。
その時、散乱したものをかき集めた同僚が、それを私に手渡して来た。
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