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これ……は……
手渡されたものは、何十枚あるか分からない、膨大な写真の束だった。
その一番上に乗っているのは、私と課長が腕を組んでホテルの中へ入っていく写真。
慌てて写真を胸に押さえ込んで隠してみたものの、同僚たちはもう見た後。
驚いたような、でも、好奇に満ちた視線がこちらに向けられている。
「堀江さん?」
係長が手を差し出すので、私はのろのろとその写真を彼に手渡した。
彼は、受け取ったその写真に一瞥をくれると、表情を変えることなく、女性の方に向き直った。
「工藤課長の奥さまですよね? 課長はただいま外出中ですので、こちらでお待ちください」
まるでなんでもないことのように、さらりと女性に告げて、会議室へと案内するため、左手を上げて行く手を指し示す。
「私は、主人じゃなくて、この女に話があるのよ!」
女性の興奮は収まることなく、声を荒げてまくし立てる。
「もちろん、存じ上げております。堀江もお茶を用意しましたら、すぐに参りますので、どうぞこちらでお待ちください」
係長はそう言うと、私の方に向き直り、
「堀江さん、お茶は3人分お願いね」
と指示した。
私は、一礼すると、そのまま給湯室へと逃げ込む。
どうしよう、どうしよう、どうしよう……
証拠の写真を持って来てる以上、もう言い逃れはできない。
私はどうすればいいの!?
半べそ状態の私は、それでも、のろのろと指示されたお茶を入れようと、急須と湯呑みを棚から取り出す。
ポットのお湯を急須に入れ、湯呑に移し、空の急須に茶葉を入れる。
湯呑みのお湯を急須に戻して、いつもの手順でお茶を入れる。
うん、いい香り……
こんな時でも、お茶の香りは私を癒して落ち着かせてくれる。
私は、そのまま茶托と共に会議室へと向かう。
コンコンコン
私はお盆を左手に持ち、右手でノックをする。
すると、すぐに
「どうぞ」
と中から係長の声がかかる。
私は、そっとドアを開け、蚊の鳴くような声で
「失礼します」
と一礼して入ろうとするけれど、中から思いっきり睨みつけられて、一瞬、足がすくんでしまう。
それでも、ここは会社、逃げるわけにはいかないと勇気を振り絞って中へと足を踏み入れた。
2人の前にお茶を出し、3つ目のお茶をどうしようかと思っていると、係長が自分の隣の席をコンコンと指で鳴らした。
私はそれに従い、お茶をそこに置き、そのままお盆を抱えたまま立っている。
私が座っていいものかどうか分からなくて……
けれど……
「堀江さん、とりあえず、ここ、座って」
と係長が言うので、私は、その隣にお盆を置いて、一礼すると、恐る恐る座った。
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