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長い夢を見ているようだった。
オーディションの日はなぜか決まって雨が降り、私は毎回傘を持って出かける。
湿気を吸った髪はボサボサでまとまりがなく、目元を目立たせるために塗ったアイシャドウは落ちてきた水滴で散らばっていた。
「97番、今村充希です。よろしくお願いします」
「はい、どうぞ」
5名もの大人に見つめられながら、私は配られた台本に沿って台詞を言う。
「...はははっ。あたしの人生、チョロかった〜!
幼い頃からチヤホヤされて甘やかされて、小中高大とエスカレーター式で入学、そこで3桁を超える男の子たちから告白されちゃった。もう最っっ高!
遺伝子ガチャ、大当たりだったなぁ」
ここで自信満々にピースサイン。
輝く笑顔。
あーあ。
こんな現実だったらどんなに幸せなんだろう。
「はい。ありがとうございました」
冷たいトーンで投げつけるように放たれた言葉は、何回聞いても決して慣れることはない。
今回もダメだったみたいだ。
先ほどまで輝く主人公とは異なり、私はまだ暗闇の中でもがいている。
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