私がパパの娘なの!

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私がパパの娘なの!

 アナンは眉をひそめた。  むぅ〜……。  アナンは首を捻った。  あんなヴァンパイアくらい、私の力で浄化できるのに……。  それなのに、なぜオルなんかに任されるのだろう。 「そりゃあ、お前の実力不足が原因だって。ガキンチョ♪」  あでっ! と思わず出る一言。  いきなり頭に空手チョップを仕掛けてくるクレインにも、アナンは眉をひそめた。 「おっさんなんかに、実の娘の複雑な気持ちがわかってたまるか」 「ギルドは家族。ギルドのボスは、ギルドの父親。親父は、もうアナンだけの親父じゃねえんだ」 「また、それか」  ぷいと顔をそむけるアナンも気にせず、クレインは話し続ける。 「親父は、血の繋がりなんざ気にしねえお人なんだ。大切なのは、一般市民を極悪非道なヴァンパイアから守れるだけの力だ。もっと言えば、それで一般市民からの信頼を得て、いかにこのギルドが発展していくか。そのためなら、手段も情も関係ない。そして、親父はそれができるお人だ。だからこそ、この巨大ギルドの『親父』たりうるんだよ」 「その話、何回も聞いた」とアナンはぶっきらぼうに言った。 「同い年くらいの子供で、オルにはそれだけの能力があって、アナンにはなかった。だから、オルに仕事が任された」 「だから、その話、何回も聞いた」 「親父にとっての子供は、アナンであり、オルでもある。息子も娘も、みんな平等なのさ」 「だから、その話、何回も聞いたっつってんじゃん!」  耳をつんざくような叫び声も、クレインは耳を塞いで飄々としていた。 「聞いてないから、何回も話してあげてるんじゃない」 「私をバカにしたいわけ?」  クレインは肩をすくめた。 「だったら、親父に頭を下げてみたらどうだ? 『この仕事、私にやらせていただけませんか?』ってな」 「『お前には無理だ』って突っぱねられるだけよ」とアナンは吐き捨てるように言った。  ヴァンパイアハンター・ギルドの中でも巨大な「蒼天の竜騎士(フォン・ドラグニア)」のボス、ドルーク・ヴァルニオンの娘として生まれた彼女は、物心付いた時からギルドに入りたがった。父親の活躍ぶりと、部下からの慕われようを見れば、当然のことかもしれない。しかし、父の娘だからと言って、彼女に特別な能力があるわけではなかった。「息子」や「娘」は数人いたが、アナンにはどうしても勝てない相手がいた。  それが、オル・トヴァキアンだ。  彼は、ドルークがどこかで拾ってきた少年で、実の親はいない。だからこそ、ドルークのことを慕っており、アナンのことを敵視していた。 「オレが、親父の本当の息子だ」  そう言って、オルは憚らなかった。  アナンも、オルのことが大嫌いだった。「パパは、私のパパなんだから!」そう、何回も言い返した。  しかし、ギルドの親父は無慈悲だった。少なくとも、ドルークの「平等」が、アナンにはそう感じられた。  なあに、泣いてんだよ。 「親父って、昔からそうだったんだよ」  クレインは、アナンの秘密基地(街のはずれの木の下)までわざわざ来て、楽しそうに笑った。 「泣いてないし。おっさん、目悪くなったんじゃない?」 「せめて『お兄さん』って言ってくれよ。言っても、俺は親父の右腕だぜ。ん、だとしたら、『お兄様』の方が適切だよな。だって、俺、偉いんだし」 「百歩譲っておじさま」 「俺が親父の右腕だってことは、認めてくれんだな」 「客観的に見て、おっさんはこのギルドに欠かせない存在だとは思うよ」 「たまには嬉しいことも言ってくれんじゃないの。もしかして、俺のこと、好き?」 「あくまでも客観的に見て、ね」  クレインは肩をすくめた。 「ま、あの親父の元に生まれたお前は、ある意味では不運なのかもしれないな。けどさ、生まれちまったもんは仕方がねえ。それを運命と受け入れることだ。親父は、昔からそうだった。ギルド結成当初からいた大親友でさえも、ドスファルトの大群に襲われた時には、ギルドのために犠牲にするという選択ができた」 「いわゆる、冷たい人」  呟かれた言葉に、クレインは口の端を歪める。 「言い換えれば、優秀なボスだ」  アナンがいくら落ち込んでいるときでも、クレインは常に現実を教えた。  だから、なのかもしれない。アナンは焦っていた。もう、私には時間がない。これが、ラストチャンスだ。きりりと眉根を寄せて、武器を手に取る。  落ち込んでいるアナンの姿を見た後、クレインはいつかのアナンとのやりとりを思い出していた。あのときも、一人で勝手に街の外に出ようとしていたのを、間一髪で引き留めたのだった。  その後、「アナンが見当たらない」との報告を受けた際、クレインは呆れたようにため息を吐いた。 「まったく。仕方のない馬鹿娘だ」  けれども、どこか面白がってる様子で、クレインは武器を手に取った。 × × ×
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