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第九十九話 飛び娘の歌
「お早いお帰りで、ボス」
『地下の墓所』で私たちを迎えたのは、壁に凭れて薄目を開けている荻原だった。
「テディ、これ操作できる?」
私がコントローラーを渡すと、荻原は「やってみましょう。しばし猶予を」と言った。荻原がパネルを操作し始めてほどなく、ぶいんという音がフロアに響き、カプセルの蓋が六つ同時に開いた。
「皆さんを救出しに来ました。目を覚ましてください」
私の呼びかけに最初に応じたのは、真美子だった。
「……あなた、知ってる……探偵さん」
「そうよ。何度かお目にかかってるけど、本物同士で会うのは初めてね」
「私……あなたと戦った……でも、夢……」
「わかってる。令嬢カフェにいたのも人形の方よね。あっちはリューザーに戦えって言う命令をすり込まれていたんだもの、あなたが気に病む必要はないわ。……それよりみんなと早くここを出ないと」
真美子がカプセルから出ると、丸谷七海、拓摩、稔といった能力者が次々と目覚め、『棺桶』の外へと這いだし始めた。
「あ……お姉さん、知ってる」
稔の顔を見た私は、全身の緊張がふっとほぐれるのを感じた。以前の邪悪さが消え、年相応の子供らしさが戻っていたからだ。同時に双子の少女をがカププセルから出るのを手伝っている拓摩の横顔も、毒気が抜けて普通の子供のそれに戻っていた。
「さあ、行きましょう。ラボに戻って青い方の扉を選べばいいのよね?」
私が自由の身になった六人と荻原たちに声をかけると、最初に覚醒した真美子が「あの……ここから地上に逃げるんですよね?」と問いを放った。
「……そうだけど?」
「私、もしかしたら皆さんを外まで「運べる」かもしれません」
「運べる?まさか全員を一度に外まで瞬間移動させるって事?無茶だわ。装置に繋がれてもいないのに」
私は空のカプセルと、ケーブルで繋がれているタンクを見ながら真美子にやんわり釘を刺した。
「でもなんとなく……できる気がするんです」
私が「歩いた方がいい」という言葉を口にしようかどうしようか考えあぐねていた、その時だった。突然、携帯が鳴って私の心臓がとんと撥ねた。
「ボス、石亀です。地上に通じるエレベーターの前まで来ました」
「こっちも無事、囚われてた人たちを救出したわ。今からそっちへ行きます」
「それなんですがね、先に救出した女性がボスと話したいっていうんです」
「美郷さんが?……いいわ、代わって」
私がいったん携帯を耳から離して待っていると、ほどなくスピーカーから美郷の物と思しき女性の声が聞こえ始めた。
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