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第百話 月明りの墓地
「あ、所長さん?美郷です。実はさっき、頭の中にみなさんが……たくさんの方が地上に現れる映像が見えたんです」
「……それって、予知って事?」
「わかりません。もしそれが現実に起こるのなら、私たちは先にエレベーターで地上に行って、所長さんたちが「現れ」るのを待っていようと思います」
「どうしよう……」
私が戸惑いつつ周囲を見回すと、呆然と立っている仲間たちの中でただ一人、真美子だけがしゃがみこんで何かに集中している様子が目に入った。
「――みなさん、私の周りに集まってください」
私はを決すると「みんな、真美子さんの言う通りにして」と言った。
「ボス、本気で「飛ぶ」つもりですすか?」
「飛べなかったら歩いて戻ればいいだけのことよ」
私が適当な言葉で部下の懸念をやり過ごした、その時だった。目の前が二、三度ストロボを焚いたように明滅し、気がつくと私たちは日の暮れた霊園の真ん中に「出現」していた。
「――ボス!」
T字型の墓標の前で目を丸くしてそう叫んだのは、石亀だった。
「本当に……飛んじゃった」
私が呆然としていると突然、背後で「ぐうっ」という呻き声が聞こえ、同時に別の方向からも「うぐっ」というくぐもった声が聞こえてきた。
「――何なのっ?」
立ちあがって周囲を見回した私が目の当たりにしたのは、にわかには信じがたい光景だった。真美子と七海が大神を押さえつけて首を絞め、子供たちが一斉に金剛に噛みついていたのだった。
「ちょっと、どうしたの?なぜそんなことをするの?もうカプセルの中じゃないのよ?」
部下たちを助けようと足を踏みだした私は、あるものを見て咄嗟に足を止めた。
「これは……」
迂闊には動けない、そう私は直感した。身体の周囲に白く光る球体がふわふわと飛んでいるのが見えたからだった。
「……『モジュレーション・オーブ』だわ!」
私が光の出どころを探るべく視線を動かすと、少し離れた場所から見覚えのある人影がゆっくりとこちらに向かって歩いて来るのが見えた。
「助かったと思って油断したようだな、探偵」
大柄な人影――ヘテロダイン久我は笑いながらそう言うと腹部の装置をこれ見よがしにつき出してみせた。
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