第九十七話 金の盥の呪い 

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第九十七話 金の盥の呪い 

 通路を介して繋がっている奥の部屋で私たちを待ち受けていたのは、椅子に座ったままこちらに銃のような武器を向けているリューザーの姿だった。 「もう逃げられないわよリューザー。観念してこっちにコントローラーを渡しなさい」 「そいつは無理と言う物だ。むしろ命乞いをすべきは君たちの方ではないのかね、探偵諸君」  追い詰められても余裕を見せ続ける敵に私が焦れていると、隣の大神が突然「うーっ」という唸り声と共に身体を変化させ始めた。 「――ウルフ!」  私が驚いて見つめる中、大神の姿はあっという間に人のそれから金色の体毛を生やした狼へと変化していった。 「おおーん!」  大神は聞いた者が慄くような咆哮を上げると、後ろ足をたわませ威嚇するような姿勢になった。 「これが欲しいのかね?ならいつでも取りに来たまえ」  リューザーは大神に対しこれみよがしにコントローラーをつき出すと、ふふんと鼻で笑った。 「う―っ、うーっ」  気をつけてウルフ、挑発に乗っちゃだめ。私が狼に目でそう伝えようとしたその時だった。 「ぎゃうんっ!」  床を蹴ってリューザーに飛びかかった大神は、空中で苦し気に身を捩ると床の上に転がった。 「――ウルフ!」 「ははは、どんな能力を持っていようと、この私に近づくことは不可能だ」 「ウルフにいったい、何をしたの!」 「私に超能力はないが、お前たちのような超能力者に襲われた時の備えは万全だ」  リューザーが不敵に言い放つと、天井の一角が開いて直径数一メートルほどのメタリックな円盤が回転しながらゆっくりと現れた。 「これは超能力を抑制する『サイコセーバー』だ。出力の大きさ次第では能力をすべて無効化することも可能だ」 「臆病者、こんな金ダライみたいな円盤を頭に乗せてなきゃ怖くて私たちの相手もできないのね」 「何とでも言いたまえ、私が生みだしてきた超能力者は君たちのような「不完全な天然物」とは違い、強力この上ないエリートなのだ」 「でもあなたには自分の作りだした能力者への愛情がないわ。あなたは超人たちを道具としか思っていない」 「その通り。超能力者など私にとってはしもべに過ぎない。が、それのどこがいけないというのかね?」 「私の前の所長はただの人だろうが超人だろうが、同じように尊重していたわ。うちの調査員たちは超能力者としてはポンコツかもしれないけど、世界一の調査員よ!」 「ふん、そんな説教で私が心を入れ替えるとでも思っているのかね?あいにくだがクズのような連中に何を言われようと私には響かない」 「クズで悪かったわね。……言っておくけど、どんな物でも九十九パーセントはクズなのよっ!」  私が思わず身を乗り出して叫ぶと、隣に進み出た金剛が「ボス、俺が隙を見てコントローラーを奪います」と囁いた。
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