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第九十八話 狼のお告げ
「無理しないで、コンゴ」
私が自重するよう釘をさした直後、金剛の身体は私の横からリューザーの正面へと移動していた。
「そいつをこっちに……うっ!」
コントローラーに手を伸ばそうとした瞬間、金剛の身体がびくんとひきつってそのままのけぞるように床に崩れた。
「くくく……これで残るは何の能力もないお嬢さん一人というわけか」
頭上に火花を散らして回転する円盤を頂きながら、リューザーは不気味に言い放った。
「悪いが、しばらくの間意識を失っていてもらおう。……それとここに来てからのことも全て、忘れてもらう」
リューザーが銃のような武器の先端を私の方に向けた、その時だった。
「お……おん……」
足元で何かが身じろぎする気配があり、私は視界の隅で大神が何か言いたげに口を動かしていることに気づいた。
――何?ウルフ?
半分人間に戻りかけた大神は、よく見ると唯一残っている獣の尻尾をわずかに動かしているのだった。大神の「尻尾」の先には何かのパネルがあり、その点滅しているランプの下に外部ユニットを差し込むためのスロットがあった。
――ウルフ、だめ!
私が口を開きかけた瞬間、尻尾の先がスロットに差し込まれ、ばちんという音と共に大神の身体が大きく痙攣した。同時にリューザーの頭上で回っていた「金ダライ」が光を失って主の脳天に落下した。
「――ほごっ!」
ごわんという金属的な音がフロアに響き渡り、リューザーは武器とコントローラーを放りだして床の上にひっくり返った。
「今だわ!」
私は駆けだして床の上のコントローラーを拾うと、ズボンのポケットに押しこんだ。
「さてと、急がなくちゃ」
大神と金剛が無事なことを確かめた私は、近くのケーブルを引っこ抜いて手元に手繰り寄せた。
「コンゴ、動ける?動けたらこの人を縛るのを手伝って」
「……了解ですボス。……ついでに大活躍のワン公のためにこいつの白衣も頂いちゃいましょう。裸でうろつかせたらうちの評判にも差し支えますからね」
私たちはリューザーの白衣を脱がせると、代わりに大神のぼろぼろになった衣服をまとわせた。
「しばらくは助けを呼べないよう、こうしちまいましょう」
金剛はちぎれたシャツの切れ端を手にすると、パンツ一枚に近いリューザーの口にさるぐつわを噛ませた。
「ウルフが服を着たらすぐ、テディのところに戻りましょう。このコントローラーで『棺桶』の蓋を開けて中の人たちを助けださないと」
私はポケットの中のコントローラーを確かめると、六人の超能力者が捕えられている『地下の墓所』へと通路を引き返し始めた。
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