メリッサ

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 二十世紀初頭のイタリア。ナポリのあるヴァイオリン工房。  男はいつもどおり、せっせとヴァイオリンを作っていた。店の中は沢山のヴァイオリンや材料の木材、工具が雑然と並ぶばかりで、男以外に客一人見当たらない。そんな中、軒先にかかったベルが鳴る。 「いらっしゃい」  男がドアの方へ目をやると、上品に着飾った若い女性が立っている。あまりの美しさに、男はしばらく言葉を失っていた。 「ヴァイオリンを、私に一つ作っていただけないかしら?」  男は我に返る。 「よ、喜んで! 納品まで二か月ほどかかりますが」 「構わないわ」 「では、お名前をお伺いします」 「メリッサ・アルディーニ」  メリッサが店を去った後、男が店の郵便受けに目をやると、一通の手紙が届いていた。差出人には「L」と書いてある。 「ロレンツォからか」  すぐさま封を開け、中を確かめる。  Lからカリストへ  次なるターゲットはS.アルディーニ。  娘のメリッサを招き入れよ。  たった三行の手紙。カリストは無言で手紙を見つめていた。  やがて、胸ポケットから煙草を取り出し、火をつける。 「アルディーニ……どっかで聞き覚えがあると思えば、さっきの女……官僚の娘か。マフィア(組織)の狙いは恐らく身代金。資金確保にはちょうどいい相手ってわけか」
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