4人が本棚に入れています
本棚に追加
二十世紀初頭のイタリア。ナポリのあるヴァイオリン工房。
男はいつもどおり、せっせとヴァイオリンを作っていた。店の中は沢山のヴァイオリンや材料の木材、工具が雑然と並ぶばかりで、男以外に客一人見当たらない。そんな中、軒先にかかったベルが鳴る。
「いらっしゃい」
男がドアの方へ目をやると、上品に着飾った若い女性が立っている。あまりの美しさに、男はしばらく言葉を失っていた。
「ヴァイオリンを、私に一つ作っていただけないかしら?」
男は我に返る。
「よ、喜んで! 納品まで二か月ほどかかりますが」
「構わないわ」
「では、お名前をお伺いします」
「メリッサ・アルディーニ」
メリッサが店を去った後、男が店の郵便受けに目をやると、一通の手紙が届いていた。差出人には「L」と書いてある。
「ロレンツォからか」
すぐさま封を開け、中を確かめる。
Lからカリストへ
次なるターゲットはS.アルディーニ。
娘のメリッサを招き入れよ。
たった三行の手紙。カリストは無言で手紙を見つめていた。
やがて、胸ポケットから煙草を取り出し、火をつける。
「アルディーニ……どっかで聞き覚えがあると思えば、さっきの女……官僚の娘か。マフィアの狙いは恐らく身代金。資金確保にはちょうどいい相手ってわけか」
最初のコメントを投稿しよう!