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「山藤さん、野田さん。ちょっと」
取調室を出た二人を、丸眼鏡をかけた鑑識の長内淳が呼び止めた。そのまま二人を取調室横の小部屋へ誘う。
「今朝頼まれた、中村さんと野田さんのDNAを調べた結果。出ました」
明るいタブレットの光が、薄暗い小部屋で気遣わしげな表情をした長内を照らす。
長内が指さした画面に、緑に瞬く文字。
『合致 100%』
野田は、その文字を見つめながら言った。「どういうこと」
長内も不思議そうに眉をひそめて、画面を見たまま答えた。
「双子の片方が養子に出されて……が、よくあるパターンだけど」
山藤がその下の『サンプル』の項目を見ながら、それを否定する。
「生年月日が違う。双子説は、ないな」
中村和成。29歳。2001年7月14日生。
野田彗太。29歳。2001年10月22日生。
「双子じゃなかったら何?」
野田の問いかけに、長内は眉を軽く上げて呟いた。「……クローン、とか」
野田が、冗談、というように薄笑いを口元に浮かべて長内を見た。「ヒトのクローンって、できるんですか」
長内は「あり得ないけど」と前置きしてから、ざっくり説明した。
「技術的には、できる。1998年に生み出されたホノルル方法。体細胞からクローンを作り出せる。いろんな動物でやってる。ただ、ヒトは法律違反だ。誰もやってない」
そうだよな。
野田はクローンの言葉を頭から締め出した。
おれは、ちゃんと父ちゃんと母ちゃんから生まれた。生まれてすぐ病院で母ちゃんが撮った写真もたくさんある。
じゃあ、なぜ中村が同じ遺伝子を。
野田は、長内に言った。「遺伝子データベース全検索、してくれる?」
「いいのかよ」長内が困った顔をした。「結果によっちゃ、その……」
野田の両親以外の誰かに合致したら、お前は二人の血を受け継いでいないことになるんだぞ……。
「大丈夫だよ。問題は中村だから」
野田はもう一度、『合致100%』をちらっと見た。
おれの方は、間違いなく父ちゃんと母ちゃんが合致50%で出る。
中村の遺伝子の出所は、どこだ。
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