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人が消えた会議室で、野田はスマホに向かった。
「よう、母ちゃん」
「彗太? 久しぶり。今日、仕事休み?」
「いや。ちょっと聞きたいことあって。おれの生まれた病院、どこ」
「何で今?」
「いいから」
「副島総合病院」
「あのさ。聞きにくいこと聞くけどさ。おれって……なかなか生まれなくて生まれたの? いわゆる、その」
「……そうだよ。そうですよ。苦労して産んだ息子は、全然こっちに顔出さない」
「……ごめん。その時の先生の名前、覚えてる?」
「佐久先生。優しくていい先生だった」
「……あと、もうひとつ。その病院の看護師さん写ってる写真あったら、何枚か送信して。いっぱいあるだろ、写真」
「面倒くさい。今?」
「今。頼むよ。父ちゃんは」
「現場に出てる。吉野さんとこの外壁のリフォーム。腕がなまったら嫌だって」
「そっか。年なんだからあんま無理すんな、って言って。あのさ……」
「何?」
「いや……」
「彗太、もしかしてあんた、お金?」
「違う、違う」
「今度いつ帰ってくるの?」
「それはまた後で」
「いっつもそう。じゃ、体に気をつけて、他の人に迷惑かけないように頑張んなさいよ」
「わかってる」
電話を切った。
同じ。同じ。同じ……。
野田はさっきまではなかった黒い染みが、胸にじわりと広がったのを感じた。
昼になって、カップ麺にお湯を入れた野田に、愛妻弁当を手にした山藤がちょっと、と手招きした。「会議室」
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