ウロボロスの秘儀

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「なあ、覚えてるだろ?」  ごま塩頭を短く刈り込んだ年配の刑事が、優しい口調で、射るような眼差しで、目の前の中年男に一枚の写真を差し出す。  写真には、笑顔の若い男。  男は、写真をちらりと見ると、そっぽを向いてしらを切る。 「知らねえ」 「おかしいな」マスクの上の眉間に皺が寄る。「居酒屋で、この人とあんたが喧嘩になって、あんたがこの人を刺して逃げた、ってとこを見た人がいるんだけどね」 「知らねえって」 「じゃあ、これは?」  小さな取調室の机の上で、防犯カメラから起こした3Dホログラムが、返り血にまみれて走る男を何遍も再生しては巻き戻す。 「これ、あんた、だよね」 「空似でしょ」  その言葉に、部屋の隅で調書を記録していたもう一人の若い刑事がふっと振り返った。 「殺さないでくれ、って言ったろ」  その声とマスクの上の目に、中年男の口が半開きになった。  昨日、自分が刺し殺した男が、そこにいた。
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