暗やみのなかで浮かび上がったそれをおれは忘れない

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おれは、やりたいことも将来の展望もないまま大学生活を送っていた。講義を受けるよりバイトに行くほうが多かった。カネを稼いで好きなように使える生活は漠然とした不安を紛らわせた。  そのうち、まわりは就活やインターンに目の色を変えるようになっていった。おれは彼らを遠い国か何かの出来事のように眺めた。陽を受けて白く輝くキャンパスに出入りする学生たちは皆、友人たちと笑いあいはしゃぎながら、突っ立つおれの前を通っていった。そのときはじめて、おれはこのキャンパスでは異物なのだと知った。  こんなところにこのままいたら、異物のおれはただのゴミになってしまう。本気でそう思った。  ゴミから脱出したかった。いや、逃げ出したかった。できるだけ、遠くへ。  おれは親からの仕送りとバイト代の全部をかき集め、バッグ一つで空港へ向かった。
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