暗やみのなかで浮かび上がったそれをおれは忘れない

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 おれは首を振るのが精いっぱいだった。 「言え!」 「壁に、目がある」 「ちがう! さっきおまえが言った言葉だ!」  おれはようやく、あの時は日本語だったことを理解した。 「メ、ダ」  おれは壁を指さした。  店主はおれの指先へ顔を向けた。そして、ぎょっとした。 「あれをメ、と言ったんだな」 「ああ」  店主はみるみる蒼くなった。 「まずい」  店主は抱えていたナップザックを放り出した。  おれはびっくりした。さっきまで目の色を変えてかき集めていた宝を捨てるとは、店主もいよいよおかしくなったにちがいない。 「おまえら! 命が惜しけりゃここのものは全部置いてすぐ逃げろ!」  言うなり店主は扉へ駆け出した。 「ええ? いやだよ。もったいない。店主がいらないならぼくらもらっちゃうよ」  テオとジョシュはナップザックからこぼれだした色とりどりの宝石のついたネックレスを拾い始めた。 「忠告はしたからな!」  店主は扉の向こうへ姿を消した。二人はじぶんたちの首にネックレスをかけて遊んでいた。これでお金持ちになれるぞ、もうユウジはいらないね、とけらけら笑っていた。
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