暗やみのなかで浮かび上がったそれをおれは忘れない

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 おれは二人を放って店主の後を追った。  暗闇の中で、遠くにちかちかと揺れる小さなあかりは店主の懐中電灯だろう。おれはそれを目印に、できるだけ早く歩いた。本当は走りたかったが、膝がどうにも震えて言うことをきかなかったのだ。  暗かった通路から突然、満天の星空に変わった。冷たい空気が肺を刺激した。絡みつく砂地に足を取られ、おれはつんのめった。  バンはエンジンがかかっていて今にも発進しそうだった。  おいていかれてはたまらない。おれはバンの扉をスライドし、中へ飛び込んだ。  同時にバンは急加速で走り出した。 「おっさん! いったいどうしたんだよ」  おれは運転席の店主へ背後から怒鳴った。 「説明しろよ! あいつら置いて行っていいのかよ」  肩で息をしながら、おれは店主の肩を揺さぶった。 「あいつらには忠告したからどうなっても知らん。だが、おまえには命拾いの借りがあるからな」  店主は片手でハンドルを握り、もう片方の手で脇に置いてあったペットボトルを掴むと、水をぐびぐび飲んだ。 「おれにもよこせよ」  ひったくるようにペットボトルを奪うと、残りを全部飲み干した。 「あれは、墓は墓でも、呪いのかかった墓だ」 「なんでわかるんだよ」 「壁一面に描かれた目が動いていたろ。粘土板にぎっしり書かれてた楔形文字。それに金のランプに高価そうな器にえらくごてごてした装飾品。葬られていた者は、おそらく呪いをどうこうする職に就いていた者だということだ。そういう奴の墓のものを盗んだらどうなるか、だいたい察しはつくだろ。だから比較的見つかりやすい墓だったのに今まで盗掘されてなかったんだな。わしとしたことがへまやっちまうところだった」  呪われるのはおれだっていやだ。さっさと逃げ出す気持ちはわかる。それに壁の動く目と目があったら、だれだって呪いの存在を信じるに決まっている。 「メって言ったな、っていうのはなんだよ」 あれはどこの国の言葉だ? おまえの国か?」 「日本語だよ。おれは日本人だ」 「ああ、どうりで」 「どうりでって、なんで?」 「古代の国の言葉と日本語に共通点が多いっていうのは有名な話だからな」 「古代の国って?」  店主は大げさにため息をついた。
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