暗やみのなかで浮かび上がったそれをおれは忘れない

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 翌朝、おれは店主に、二人を迎えに行くように頼み込んだ。店主はぶつぶつ文句を言いつつも、午後にはバンを出してくれた。  昨日の岩の前で、二人は倒れていた。駆け寄って体を揺すってみたが、二人は息をしていなかった。すっかり冷たくなっていた二人の亡骸を前に、店主は警察を呼んだ。  検視の結果、二人は溺死とわかった。砂漠の真ん中で溺死、というのに、警察も誰も驚かなかった。 「な、水で浄化されたろ」  店主は救急車に乗せられる二人の遺体を見ながら、おれに言った。 「二度とここへ近づくなよ。次は容赦されねえと思っとけ」 「わかってるよ」  おれは夕闇がもうすぐ訪れる砂漠に向かって、ごめんなさい、と日本語でつぶやいた。
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