暗やみのなかで浮かび上がったそれをおれは忘れない

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 格安便と運とに押されて、気がつけばおれは欧州にいた。  貧乏旅行をはじめてまもなく、おれは年齢の近いバッグパッカーの二人連れと出逢った。フランス人のジョシュとイタリア人のテオは旅の途中で意気投合したとかで、一緒に気楽な旅を楽しんでいるということだった。 「ユウジも一緒にどうだい?」  と言ってくれたので、おれは喜んで仲間に加えてもらった。  とはいえおれがわかるのは英語だけで、しかもほとんどしゃべれないし聞き取れなかった。当然、彼らが英語で会話していてもほとんどわからなかった。    二人は時折、英語以外の言語で話をしていた。ちらりとおれに目をやって含み笑いしているのを見るのは不愉快だったが、旅仲間は心強い存在だったので、おれは我慢した。  二人はおれに話しかけるときはゆっくりと、簡単な単語を使ってくれた。それが嬉しくて、時々二人の飯をおごった。それで友好的な関係が保てているのだろうとおれは思った。 「ユウジ、砂漠を見に行かない?」  あるとき、テオが提案してきた。 「ジョシュが遺跡を見たいっていうんだよ」  砂漠か。ラクダとアラビアンナイトと、あとなんだっけ。ちょっとわくわくしてきた。あてのない旅は身軽で自由だ。 「行く。砂漠でラクダに乗ってみたい」 「決まりだな」  おれたちは早速、格安ルートを探した。その間、おれたちは旅費を最小限におさえながら少しずつ、南へを移動していった。  ある日、スマホをしばらくの間いじっていたテオが顔をあげ、 「知り合いのトラックの運転手から、仕事でぼくらの目指すほうへ行くついでに乗せて近くまで行ってくれるって連絡が来た」 「やった!」 「さすがテオ! 顔が広い!」  テオはどうやら大家族の家系らしく、自国以外にも親戚が住んでいるようだった。その親戚の伝手で、今回は便乗移動できる。出費が抑えられるのはありがたかった。二人のランチ代を出すと言ったときは決まって豪勢なものを二人は遠慮なく頼んでくれたおかげで、おれの軍資金は思った以上に早く減っていったのだ。  おれたちは夕方、指定された待ち合わせ場所でトラックの荷台に乗り込み、一晩を明かした。
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