暗やみのなかで浮かび上がったそれをおれは忘れない

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着いた先はペルシャ湾の近くだった。 「ここ、イラク?」  別れ際に見せた運転手の薄ら笑いを浮かべた髭面を思い出し、おれは遠ざかるトラックを嫌な気持ちで見送った。そのあと、運転手が勧めた町の片隅にある、小さな薄汚い店内で午後の遅いランチをとった。出された食事はごった煮の残りもののようだった。空腹には勝てず、おれたちはスプーンで口に押し込んでいたところだった。 「そうだよ、ユウジ。怖い?」  日本で碌にニュースなんて見ていなかったが、治安は良くないということはうっすらとわかっていた。 「日本は安全な場所だから、他と比べたらそりゃ怖いよな」  ジョシュが混ぜ返してくれた。 「ま、まあな」  おれは曖昧にうなずいた。度胸のない奴がバッグパッカーなんかやるなよと言われたくなかった。 「それで、これからどうするんだ? 宿は?」  これはいつもおれが二人に訊くことだった。そうでもしなければ、二人はいつまでたってもその場から動こうとしないのだ。最初のころは二人についていこうと思っていたので黙っていたら、閉店まで粘った後、店の物置に無断で入って寝たり、店で引っ掛けた女たちにそれぞれついて行っておれだけ置いてけぼりになったことがあった。以来、おれは二人が今夜をどう過ごしたいのかを確認するようになった。 「まずは、腹ごしらえの代金を払うことだ」 「うん、それで?」  ジョシュとテオは顔を見合わせてうなずきあった。  二人同時におれへ向くと、 「ここの代金、支払ってくれ」 「ぼくたち、もうカネがないんだ」 「ええっ」
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