暗やみのなかで浮かび上がったそれをおれは忘れない

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 おれはあわてて財布の中身を計算した。実は、トラックの運転手にすこしだけ礼をしてくれとテオに言われ、カネを渡して残りわすかなのだ。  だからと言って、ただ食いがまかり通るわけがない。おれは恐る恐る店主を呼び、勘定を頼んだ。  禿げ頭の店主は、目玉の飛び出るような金額を口にした。 「うそだろ、あんなまずい飯で!」  突き出た腹をさらに突き出した店主は、目を細め、傷んだ椅子に座るおれの横に立つと腕組みして見下ろした。 「あんだけガツガツ食っといて払えねえってのか」 「残り物の寄せ集めみたいな飯、200万イラクディナールって……日本円でひとり五万円もするわけないだろ」 「ここいらへんではするんだよ。世間知らずのガキが」 「そんなの払えねえ額だって。な、テオ、ジョシュ」  おれは二人を縋るような思いで顔を向けた。  二人は顔を寄せ合って、ひそひそと話をしていた。おれはかっとなった。なんでおれがいつも二人分の支払いをするのが当たり前になっているんだ。だいたいおれが窮地に陥っているのは、もとはと言えばおまえらがカネもないのに飯を食おうと言い出したからだろう。 「おいおまえら、少しはカネ出せよ」  おれは二人を怒鳴りつけた。  ジョシュはすました顔で、 「だから、カネはないって言ったろ」 「少しはあるだろ。出せよ」 「ないものはないよ」  テオもうんうん、とうなずいた。  おれの腹がめらめらと沸き立った。 「おれもこんなアホみたいな金額支払えねえよ!」  おれはドン、とテーブルを叩いた。怒りに肩が震えた。いままで下手にでていたじぶんが情けなかった。 「おまえらを仲間だと思ってたおれがばかだった」  テオが困ったような顔をして、肩をすくめて見せた。  おれは立ち上がると、店主に向き直った。
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