暗やみのなかで浮かび上がったそれをおれは忘れない

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 扉をこじ開けたあと、店主はおれをまず中に入れさせた。とことん、おれを犠牲にする気でいるらしい。中はひんやりとしていて、埃っぽかった。  店主の懐中電灯であたりを照らすと、18畳くらいの小部屋のようだった。中央に台があり、その上に棺と思われるものがあった。壁に沿って積み上げられた瓦のようなものと、籠がずらりと並んでいた。  おれは扉のそばで、テオとジョシュが籠をひっくり返して中身を床にぶちまけはしゃぐのを見ていた。店主はおれたちに目もくれず、棺を開け、中に手を突っ込んでアクセサリーらしい貴金属を引っ張り出して用意したナップザックに突っ込み始めた。 「これって古代の竪琴? うわ、これ売れそう。装飾されたカップも入ってた」 「ここに棚があったぞ。うわ、これ金じゃね? ランプ?」 「高価なものはわしのもんだ。触るな!」  店主はジョシュが手にしたランプをはぎ取ると、じぶんのナップザックへ放り込んだ。 「けち」  口を尖らせたジョシュは、仕方ないなあと言いつつ再び棚をあさり始めた。  おれはこいつらの略奪姿を、かつてキャンパスで見た学生たちと同じように見ているじぶんに気づいた。  心は冬の夜のように冷えきっていた。  「おれ、なんでこんなところにいるんだろう」  ふとつぶやいたのは久しぶりの日本語だった。英語を少しでもわかるようになりたくて、日本語を使わないようにしていたのだ。 「おれ、こんなことがしたかったのか?」  じぶんの口からこぼれる日本語に、涙があふれた。  目の前が暗くなって、ふらふらと体が傾いた。壁にどん、とぶち当たった。
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