暗やみのなかで浮かび上がったそれをおれは忘れない

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 ざらりと音を立てて、積み上げてあった瓦が床に雪崩れた。それらの表面には先端に三角のついた棒線で構成された塊が、びっしり刻まれていた。おれはそれをどこかで見たような気がしたが、思い出せなかった。  頭を預けていた壁に、ふと目を向けた。  目が合った。意識を持っているとはっきりわかる無数の目が、そこにあった。  体が凍りついた。全身の毛が逆立った。  ゆっくりと目だけを壁に沿わせて動かした。  動かすたびに、壁のいろんな目と合った。  おれはゆっくりと壁から体を引き離した。心臓が千切れそうなほどばくばく打った。人は、心底恐怖したときは冷や汗なんてかかないんだな、とおれは頭の隅で考えながら、四面の壁に目を走らせた。  そこには大きな目もあれば、小さな目もあった。その中間くらいの目もあった。どれも単純な線で描かれているにもかかわらず、妙にリアルで、だれかが壁の穴からこちらを見ているようだった。  描かれている目の一部は狂ったように略奪をする三人を見つめ、一部はおれを見つめていた。  おれはよろりと後ずさった。その動きに合わせて、おれを見つめていた目がおれを追った。  壁の目はおれたちのしていることを見続けていたのだ。その目で。 「め、めだ……め」  おれはへなへなと腰が砕けそうになったのをかろうじてこらえると、もつれる足で扉へ向かおうとした。 「待て!」  店主が血相を変えておれのもとに来ると、両肩をがしっとつかんだ。 「いま、おまえなんて言った?」
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