闇がりと後悔

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 そう言いながら僕は自分の座席の近くへ行き、机のフックに引っかけていた体操服を持った。  静とはなんとなく距離ができてしまってから以前のように話すことはできないと思っていたが、今のように笑い合うことができてよかった。このまましばらくここにいて、色々なことを話したかった。しかし、体育館でヨッシーを待たせている。僕は次の機会にでも静とゆっくり話すことができると思い、教室を出ることにした。 「それじゃあ行くね。また今度ゆっくり話そう」 「うん……また今度……ね」  教室を出ようと出口の方まで行き、扉に手をかけた時、大きめな声で僕は呼び止められた。 「渡! やっぱり待って!」  静にはどちらかと言えば大人しい印象を持っていた。今まで彼女が大きな声を出していたことを聞いたことがなかったからだ。怒鳴り声なんかはもっての外、泣いている時だって叫んだりしているのを見たことがない。それが今回、それほど大きな声ではなかったが、今までに聞いたことのないような声量で呼び止められたため面食らった。何かただならぬことがあるように感じた。 「どうしたの?」  沈黙が流れる。窓を叩く雨音と風切り音が先ほどよりもはっきりと聞こえるような気がする。少しして、静が口を開いた。 「私、引っ越すことになった」 「引っ越すってどこに?」 「分からない。お父さんとお母さんに聞いても教えてくれなかった」 「いつ頃引っ越すの?」 「それも分からない。だけど、近いうちって言ってた」  僕は困惑して言葉が出てこなかった。  こんなことってあるんだ。今までもこれからも身近にいると思っていた人が遠くに行ってしまうなんて考えもしなかった。僕と静はお互いに連絡を取る手段を持ち合わせていない。そのため、引っ越すとなると、それはほぼ別れに近い。たかが引っ越しで大袈裟かもしれないが、このことは僕にとって静と一生会えないような出来事な気がした。
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