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次の日、僕は母から静の家の連絡先を聞き、手紙の返事をしようとした。しかし、静は既に引っ越してしまっていたため、できなかった。詳しい事情は分からないが、電話は通じず、彼女がどこへ行ったのかも知るすべはなかった。
月曜日に学校に行ったときにクラスメイトや先生などにも静に繋がるものはないか探してみたが、手掛かりは一切得られなかった。
静とはもう永遠に会うことはないのだと思った。この日の後悔は一生忘れられない。
―――――――――
蝋燭の揺れる炎をぼんやりと眺めていると、コトンと目の前の机にコーヒーの入ったマグカップが置かれた。
「その本、私がおすすめしたやつでしょ。こんな暗いのに読めた?」
机の上に置かれた本を指さしながら彼女は言った。
「いや、全く読めなかった」
「そうだよね、暗すぎるもんね」
僕は持ってきてもらったコーヒーを啜って、息を吐く。
「あの日のこと覚えてる?」
「あの日って、どの日?」
「小学校の時、今日みたいに天気が悪くなって停電が起きた日のこと」
「もちろん覚えてるよ。私、かなり緊張したんだから。人生で一番勇気を振り絞ったと言っても過言じゃないくらいよ」
彼女はそのまま言葉を続ける。
「実はさ、あの停電の日、教室で渡のことを待ってたんだ。皆と一緒に教室を出て体育館に向かおうとした時、渡が体操服を教室に忘れていることに気づいたんだよね。それで、もしかしたら教室で待ってたら渡に会えるかもしれないって思った。だから皆で体育館に行った後、帰る振りをして教室に向かってさ、本を読んでたんだ。真っ暗で文字が見えなかったけどね」
「そうだったんだね。よくよく考えたら、あの暗闇の中で読書なんてできないね」
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