闇がりと後悔

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 激しい雨粒が窓ガラスを叩き、低い唸りをあげる重々しい風が部屋を揺らしている。天気予報によると、どうやら台風が来ているらしい。アパートの一室くらいなら簡単に飛んでいきそうなくらい風が強い。今にも窓ガラスが割れそうだ。念のため、事前にベランダにかけてあった物干し竿は室内に入れ、窓ガラスは段ボールで補強しておいたが、大丈夫だろうか。窓から入ってくる隙間風が心なしかアパートの悲鳴に聞こえる。  台風の影響で停電が起こったため、空を包み込んでいる黒い雲と同じくらい部屋の中も暗い。気休め程度に置かれた蝋燭だけが部屋をうっすらと照らしている。手持無沙汰で読書でもしようかと本を手に取り、栞の挟まれたページを開く。蝋燭の薄明りを頼りに文字を追ってみるが、どうにも読みにくい。分かっていたことだが、この空間で本を読むことは難しそうだ。  なんとなく机の中央に置かれた蝋燭を見やる。蝋燭の炎がゆらゆらと揺れている。ぼんやりと蝋燭の炎を眺めていると、ふと、昔見たテレビ番組を思い出した。その番組の内容は、いかにも胡散臭そうな恰好をした男性が女性に催眠術をかけるというものだ。  男性は片手に蝋燭を持っていて、椅子に座っている女性の方へ蝋燭を近づけて言う。 「この炎を見なさい。あなたは炎の揺らぎの中に未来のあなたを見るだろう」  女性は炎を見つめていると、次第に眼が虚ろになり、微かに聞こえる程度の小声で、最初から準備されているであろうセリフをあたかも本当に催眠術にかかったかのように話をする。女性がそのセリフを言い終えたタイミングで男性は炎に息を吹きかけ、炎を消す。すると、女性は夢から覚めたように目を開き、元の話し方に戻る。そして男性はテレビ画面に向かってしたり顔をして決め台詞を言い、催眠術が成功しましたという雰囲気のまま番組が終わる。
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