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オレ田舎出身だから、祭りって言ったら打上花火なんて無い小さな夏祭りで、そこで初めて母親にラムネ買ってもらったんだけど、炭酸を飲んだことが無かったオレにはちょっと刺激が強くて、「これが大人の味なのか」とか勝手に思い込んでいた。
で、ラムネの瓶に入っているビー玉、あれがどうしても欲しかったんだけど、取り出し方が分からなくて、家帰った後に父親に頼んでどうにか取り出してもらった。そのビー玉が本当に綺麗で、しばらくの間一日一回は絶対見ていたんだ。
初カノとの花火デートでも二人でラムネ開けて、ビー玉のこと「二人の思い出」なんてオレめっちゃ恥ずかしいこと言って、「大事にとっておかないとね」ってあの子も言ってたけど、その時大切にしなきゃと思ったビー玉はもうずっと見てないや。
あの頃の、あの夏のビー玉越し世界は、普段よりずっと輝いて見えた。
オレは、あなたのビー玉になりたい。日常にささやかな幸せを届けてくれるような、時折つまらない毎日に少しでも心が優しくなれるような。
あなたの生活に、オレらがちょっとだけ色付けする手伝いをさせてくれませんか?
パッと手に取ってもらえて、ちょっとでもあなたの気持ちが明るくなったら、オレはそれで満足です。できれば何度も聴いてビー玉より長い間手元に残してほしいけれど、一時でもあなたの生活の想い出になれるのなら、それがオレの本望です。
まだ全然MC慣れてなくてすみません。この四人でバンドやってます。
爽やかな炭酸のメロディと、とっておきの言葉の宝物を。「君とラムネ。」です、今日はよろしくお願いします。
。。。。
夏希を照らすライト以外、ライブハウスはまだ暗闇の中だったけれど、夏希の声が闇を優しく切り開いていくようだった。何だかふわっとした夢の中にいるみたいだった。夏希が即興で紡いでいく言葉が、俺には魔法のように思えた。
夏希のMCが終わった直後に、地面から心臓を打つドラムで我に返り、弦の振動に痺れた。慌てて視線を鍵盤に集中させる。夏希の歌声で幕を切って、ステージが光に照らされると、観客からわあぁと歓声が上がる。
「君とラムネ。」の、早瀬夏希のステージが始まる。
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