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陽が沈んでいく大通りを、グレーメタリック色のスープラが走っていく。
運転する江戸川と、助手席で怖い顔した松田。
つい先程、昌也を家まで送り届けた後だった。
「松田さん。何かあったんですか?」
江戸川が、ようやく切り出して尋ねる。
白い無地のTシャツを着た松田は、汗がひいた様子だった。
「ああ・・。お前も知ってる通り、今回の捜査は難航している。」
「確かにそうですね。」
江戸川が、相槌を打つ。
松田は、ゆっくりと深刻そうに話しはじめた。
「それで・・、俺なりに、色々なツテを使って調査し、裏情報なども入るようにしていたんだ。」
「そんな、いつの間に⁈」
江戸川が、驚きの表情で言う。
「まあだが、それぞれ集めた情報が確証得られないと、お前にもちゃんと話せないからな。それで、話さないでいたんだが。」
助手席の松田は、遠くの景色を見るようにしながら説明した。
「なるほど。そうだったんですね。」
江戸川は、それに納得する。
「さっき電話がかかってきた相手は、ブラジルにいる俺の従兄弟だ。ダグラスっていうんだが、元特殊部隊の諜報員だったヤツなんだ。六ヵ国語も、ペラペラと話せる。」
淡々と話していく松田だったが、江戸川には驚くべき内容だ。
「従兄弟で、元特殊部隊・・ですかぁ。凄いですね。しかも、今回の捜査で、そんな海外にまで調査の手を伸ばしていたなんて、ビックリですよ。」
運転中の江戸川は、身ぶり手振りで話す。
「お前も知ってる通り、今回事件の真相を一番知っているであろう人物が、あの『カルマの館』と、山の中に別荘をもっていた、四姉妹たちなんだ。行方不明のその四姉妹について、色々調べる必要があった。」
「それは、警視庁でも捜査したり、四姉妹を捜索してはいるんですが。なかなか情報を掴めずにいる状況ですよね。」
江戸川が、チラリと松田を見て言った。
「そうだ。だが、やっとパズルのように、一枚一枚裏情報が集まり、かなり真相に近づいてきた。」
「え〜? そうなんですか? 何かハッキリと分かった情報なら、教えてください。」
必死に江戸川は求める。
「四姉妹は、アメリカ人。3年前に日本に来たんだ。どうやら金まわりも結構イイみたいで、棲家もすぐに変えているようだ。移動に使っている車のナンバーはおさえたから、いずれ確保出来るだろう。」
「そうなんですね。あの四姉妹、神出鬼没な動きをしてますから、なかなか確保できませんよね。」
車内で、確信に迫る情報のやり取りが交わされていった。
更に、松田が話を続ける。
「そして俺は、ふと思い出した事があるんだ。妻と娘が殺害される少し前、妻が言ってたんだ。近所の公園で、娘に外人の女の子の友達が出来た、って。だがその頃、刑事捜査に追われていた俺は、きちんと話を聞かずに上の空《うわのそら》だった。同一人物かは分からないが、この四姉妹と関連がありそうだろ。」
「なるほど。確かにそれは、一つの手掛かりですね。」
江戸川は、収穫が得られたような顔をした。
その後、松田は少し曇った表情をする。
「ただ、あの四姉妹。どうやら、実名じゃなく、偽名を使ったりしているようだ。」
「え? そうなんですか。偽名を使うなんて、ますますクロの可能性が高いですね。」
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