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「はい! ありがとう〜!」
お金を受け取った叶恵は、サラリと答えた。
タコ焼きパックの詰められた袋を持ったまま、不満な女子高生が言う。
「あの〜、恋愛占いは?」
「さっき、タコ焼き作りながら、二人分は占いしてあげたでしょ。今日はもう、それで終わり。また次回おいで。」
「え〜〜、そんなあ〜!」
騒ぎたてる女子高生。
「私は、商売でタコ焼き屋をやってるんだ。占いは暇つぶしの時間がある時だけだよ。さ、分かったら、またおいで。」
あくまでも、意志を貫き通す叶恵。
そう言われて、渋々諦めた女子高生たちは、徐々に店を後にする。
「また来るから、次は占ってよ〜。」
おそらく今日、占ってもらえなかった娘が、最後の捨て台詞を言いながら立ち去っていった。
叶恵は店内から、女子高生たちを見送った後、少し満足な表情をして、奥の居間の方へと入っていく。
軋《きし》む引き戸を開けて、叶恵が居間へと上がると、そこに貴志の姿があった。
学校から帰宅したばかりの貴志は、まだ制服姿で、ちゃぶ台の前に腰を下ろしている。
「占い、見てほしいって言ってるのに、相変わらず全員分は見てあげないんだね。」
貴志が苦笑いしながら、叶恵の方を見て、他人事のように言った。
「何、言ってるの! タコ焼きが本職だよ! あれだけの人数の占いを見ていたら、キリがないよ。それに、私は即見て分かるんだよ。その人が、重大なものを抱えているか、いないのか。」
居間に上がってきた叶恵が、真剣な眼差しで答える。
「ふ〜ん、そうなんだ。」
「だから、今来ていた女子高生たちの中には、至急で占いを見てあげなければならない程の娘は、いなかったんだよ。大丈夫だよ。」
そう言い残して、叶恵は台所の方へと行った。
納得したかのように黙ったまま、ちゃぶ台の前に座っている貴志。
すると、台所の方から尋ねられる。
「貴志は今日、バイトは?」
「バイト、休みだよ。」
すぐに、貴志は答えた。
「それで今日は、バタバタとしてないんだね。」
叶恵の言葉が、台所から返ってくる。
貴志はそれには答えず、静かにちゃぶ台の前に座り込んだまま、何かを考えていた。
そうして、ふと思いついたように、貴志が投げかける。
「・・・母さん。」
その呼びかけに気が付いた叶恵が、返事を返してきた。
「あ? 何? ・・ああ。今日の晩御飯の事? 今日は、海老フライ丼だよ。」
しかし貴志は、喜びもせず、その反応は鈍い。
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