ケース7️⃣ 前世追憶

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「いや、・・あの、母さん。」 再び、貴志が呼びかけた。 その様子が気になり、叶恵は台所から顔だけ出して、貴志を見る。 「何なの? さっきから、呼んでばかりで・・。」 そのちゃぶ台の前に座る貴志の様子が、いつもと違う事が分かった。 心配した叶恵は、とうとう居間の方にやって来て、いきなり貴志の額に手を当てて聞く。 「アンタ。熱でもあるのかい?」 「いや、違うよ。熱なんてないよ。」 慌てて、叶恵の手を払い退ける貴志。 それでも心配そうに見つめる叶恵。 「じゃあ何? お腹が痛いの?」 「違うよ。お腹は痛くないし、大丈夫だよ。」 貴志は、即否定した。 ますます疑問に思った叶恵が、貴志に問いかける。 「じゃあ、どうしたの?」 叶恵のように、ハキハキとしていない貴志は、何かを言いたげに悩んでいた。 「・・うん。いや、たいした事じゃないけど。」 そこまで聞いて、叶恵は同じくちゃぶ台の前に座る。 「何? たいした事ない話を、言ってごらん。」 貴志は、あらたまった状況に、少し照れていた。 「あの、・・ほら、母さんも知ってる通り、俺はこれまで何人もの人の『前世』を見てきただろ?」 「うん、見てきたね。・・・それで?」 じっと、貴志を見つめる叶恵。 何故か、照れながら話す貴志。 「いや、それで・・今さらなんだけど。俺は、母さん自身の『前世』を見てあげていない。」 「いいえ。そんな事ない。アンタが中学の時、見てくれたじゃないか。」 叶恵は呆れたような顔をして、言い返した。 「あの時は、『前世』について、よく理解してなかったし・・。何となく見えたモノを、母さんに伝えたって感じだよ。」 必死に訴える貴志に対して、叶恵は受け流すように答える。 「あの時、アンタに見てもらった私の『前世』は、ヨーロッパに住んでいる、エリーゼって人だったんだろ。」 すぐに貴志が、食い下がるように言った。 「そうだよ。それをもう少し詳しく、見てみたいんだよ。」 叶恵の表情が、真剣な眼差しへと変わる。
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