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「貴志。アンタ、前と変わったね。」
「いや・・、変わったっていうか・・・。俺は最初、『前世』なんて興味なかったし、信じてなかった。でも、これまでに色々な人と出会い、その人たちの『前世』を見ていくうちに、実感していったんだ。『前世』って、あるんだ、って。」
貴志は、自分の気持ちを素直に話した。
「ふ〜ん。意外だねぇ。『前世』を信じるようになったんだね。」
叶恵は、少し首を傾げて言う。
「『前世』って、今生きてる現世にも何かしら影響してるような気がしたんだ。例えば、生きている目的だったりとか・・・。だから・・、一番身近な、母さんの『前世』をきちんと見たいと思ったんだよ。」
貴志は、いつになく真剣な表情で、言葉を考えながら強い口調で伝えた。
叶恵は、ほんの少し黙ったまま、貴志の顔を見つめていたが、やがて苦笑いして言う。
「ふ〜ん。そうかい。じゃあ有り難く、『前世』を見てもらおうかな。」
そうして、お互いちゃぶ台を囲んだまま、静かな時を迎えた。
貴志は、目を軽く閉じ深呼吸をはじめる。
そして両手を胸の前のほうで合わせ、三角形を作った。
貴志は目を閉じたまま、呼吸をしている。
徐々に、熱いエネルギーのようなものが手先に集まっていくのを感じるのだった。
程なくして貴志が、静かに目を開ける。
そうして叶恵の肩部分にそっと手を置いた。
すると、手先にビリビリと僅かな電流のような感覚を感じたかと思うと、不思議とその感覚は今度は腕を伝い、貴志の頭部へと流れ込んでいくのがわかる。
貴志が触れている肩部分から、まるで微量の電波のように、それは脳内へと伝わっていった。
まるでコンピューター同士を繋ぎ合わせた有線コードを伝い、データ情報を移し取るかのように、貴志の脳内には、様々な画像や場面が次々と飛び込んでくる。
「どお? 私の『前世』・・・見えた?」
待ちきれない叶恵が、貴志に問いかけた。
少しだけ、呼吸を整えるような仕草をする貴志。
「ああ。見えたよ・・・。」
「そういえばアンタ、最初の頃、他人の『前世』を見はじめた時、よく倒れ込んでいたのに、それがなくなったね。」
叶恵が、思い出したように言った。
「そうだね。やっぱり、体が慣れてきたのかな。」
「うん・・・。で、私の『前世』は?」
叶恵は再び、本題へと戻す。
「母さんの『前世』なんだけど・・。」
貴志は改めて、叶恵を見直して話しはじめた。
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