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対するもう一人の大人は、50歳代ぐらいの女性で、会話をしながら時折、隣の椅子に座らせている自分の娘を気にかけている。
娘は5歳ぐらいの女児で、着込んできた分厚い衣服の上から、更に母親の物と思われる防寒着に身を絡んでいた。
程なく会話のやり取りを続けてきた末に、50歳代の母親の方が伝える。
「星読《ほしよ》み先生。今日は本当に、ありがとうございました。」
それに対して30歳代の女性も、優しい笑顔を浮かべて答えた。
「いいえ。私で良ければ、またいつでも力になりますから。」
母親はまた、チラリと娘に目をやりながら、話しを返す。
「本当にお陰様で、この子の『前世』っていうものを知る事が出来ました。ありがとうございます。」
「お子さんは、きっと『前世』からの使命に気がつき、そして今後の人生に、生まれてきた意味を見つけられる事を信じてあげてください。」
星読み先生と言われた女性が、そう告げると、母親はまた何度も頭を下げて、代金を支払った。
その後、吹雪こそないものの、再びひんやりと冷え切り静まり返ったような外へと、母親と娘は出て行く。
「ありがとうございました。」
その言葉を最後に、親子は寒冷の中を立ち去っていく。
星読み先生は親子を見送った後、家の中に戻った。
それから、しばらくした後、慌ただしく沈黙を破って、誰かが家の中に入ってくる。
星読み先生は別段驚いた様子もなく、振り返りはしたものの、物音だけでその主が誰なのか判断出来た様子で言った。
「メイド。おかえりなさい。買い物、少し遅かったですね。」
メイドと言われた人物は、20歳代後半ぐらいの女性で、頭から灰色の頭巾を被っている。
その顔は、くすんだ肌で丸顔、小柄ではあるが小太りな体型だった。
メイドは、どうやら急いで帰ってきたらしく、返答も出来ない程、息を荒くしている。
「焦らなくていいですよ。落ち着いてから、話してください。」
そんなメイドの事を気遣って、星読み先生は、温かい態度と笑顔で伝えた。
メイドは、とりあえずキッチンの方へ買い物の品を置くと、ようやく呼吸を落ち着ける事が出来、声を発する事が叶う。
「・・ハァ、ハァ。あ、・・あのう、星読み先生。お客さんは?」
「あ、先程、帰りました。」
星読み先生がそう話すと、メイドは申し訳なさそうな表情になって、頭を下げた。
「星読み先生。すいません。お客さんに出す飲み物を、買いに行ったのに・・間に合いませんでした。」
「まあ、仕方ないですよ。次の時に、飲み物を出してあげれば良いですから。」
星読み先生は、穏やかに答える。
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