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フロントガラスをせわしく動くワイパーが、まるで役に立たないかのように、洪水にも似た雨が流れていく。
ゆっくりと気をつけながら運転する、鬼切店長が前方を凝視していた。
「うわぁ〜。こんな中を歩いて帰ってたら、ずぶ濡れになってたぁ〜。」
キョロキョロと助手席から、辺りを見回しながら、美咲が言う。
行き交う周りの車も、雨水を弾きながら過ぎ去っていった。
「予報では、今日の夜から大雨になると言っていたけど、まさかここまで降るとは、ね。」
鬼切店長が、運転しながら答える。
「店長に車で送ってもらえて、本当に助かりました〜。」
美咲がお礼を言った。
「ところで、学校の方はどうかな?」
鬼切店長が、話題を変えて尋ねる。
「どうって〜。女子校だし、私あんまり学校は好きじゃないんですよ〜。勉強は嫌いだし。バイトとか、働いてる方がイイかな〜。」
相変わらずの調子で、話す美咲。
「そうか。まあ人というのは、自分の力が発揮出来る環境に、いつ巡り合うか分からないからな。そして、何が正解なのかも分からない。」
鬼切店長が、優しい声で伝える。
「う〜ん、そうなんですね〜。自分の力が発揮出来る環境かぁ〜。そもそも、自分の力が何なのかが分かってないんですよ〜。」
美咲は、問いかけるように聞いた。
「ほとんどの人が、そんなもんだよ。人生は、この大雨みたいな感じで、先の景色がハッキリと見えない。でも、心のどこかで、信じた方向へと進んでいき、目的の場所へと辿り着く。」
鬼切店長は、まるで諭すように話をする。
「へぇ〜、その例え。なんか、面白いですね〜。」
「そうかな。ハハ。」
そこで、鬼切店長と美咲は、笑いあった。
「あと、不思議だなぁ〜って思うのが、人それぞれ嫌いなモノや苦手なモノ、大好きなモノって色々違うじゃないですか。食べ物だけでも、好みが違うし。何でなんですかね〜?」
再び、美咲が話題を投げかけてくる。
「それは、確かにあるよね。まあ、その理由については、誰も確証なんて言い切れないだろうけど。ただ・・。」
「・・ただ?」
美咲が、鬼切店長の横顔を見ながら、聞き返した。
「ただ、一つの説として、・・『前世』が関係しているって事がある。」
少し確信に迫った表情で、鬼切店長が言う。
「『前世』?・・・『前世』って、あるんですかねぇ?」
再び、美咲が尋ねた。
「それを証明する事は、難しいだろう。でも、俺は『前世』はある、と思う。」
「へぇ〜。『前世』ね〜。なんか、そんなのがあったほうが、面白いですよね〜。私の『前世』。何だったのかなぁ〜?」
美咲は急に、興味を持った子供のような顔をして話す。
鬼切店長は、笑顔のまま黙って聞いていた。
「私、友達たちから、ふざけて”リス” とかって呼ばれたりするんですよ。なんか、リスに似ているみたいで。ハハ。『前世』は、リスだったんですかねぇ〜。笑える〜。」
美咲は、テンションを上げて話し続ける。
「あと前から、なんか分からないんだけど〜。私、鬼切店長と話していると落ち着く感じがするんですよ〜。安心というか、懐かしいというか〜。気のせいかもしれないけど。これも、もしかして『前世』が関係してるんですかねぇ〜。ハハ。」
鬼切店長は、少し考えて答えた。
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