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白壁に、薄汚れた跡が幾つも見られる宿屋は、宿泊する者の気持ちを躊躇させる。
「ここに、泊まるんですか?」
メイドが小さな声で、星読み先生に尋ねた。
「今日は、仕方ないわ。」
星読み先生はそう答えると、中へと入り受付へと向かう。
受付には、この宿屋の主人らしき鼻髭を生やした細身の中年男性がいたが、入ってきた2人をジロジロと見ていた。
「えっと、大人2人ですけど。空いてる部屋、ありますか?」
星読み先生が伝えると、暇そうにしていた宿屋の主人は、ニコリと笑顔を浮かべて答える。
「空いてるよ〜。君たち、見た事ないね。どこから来たの?」
「ボストンです。」
星読み先生は、堂々とした態度で伝えた。
宿屋の主人は、受付用紙を出しながら話し続ける。
「これ書いて。・・へぇ〜、ボストンから来たのか。」
星読み先生は、サラサラと受付用紙に書き込んだ後、尋ねた。
「この村で、二人の子供が、発作のような病気を発症したって聞いたんですけど。」
用紙を受け取った主人が、それについて教えてくれる。
「ああ、昨晩の〜。この村の牧師、サミュエル・パリスさんところの、子供さんだよ。もう一人は、その従姉妹《いとこ》だけど。可哀想にな〜。」
それを聞いて、星読み先生の表情がハッと変わった。
「サミュエル・パリスさん? 2年ぐらい前に、新牧師として、この村に来た方ではないですか?」
「お、よく知ってるねぇ〜。あ、そうか。あんた、ボストンから来たからね〜。」
宿屋の主人は、ベラベラと快活よく話す。
「サミュエルさんはボストンに住んでいましたが、2年前にこのセイラムの牧師に任命され、家族で移住してきたはずです。」
星読み先生が、知っている事を付け加えると、宿屋の主人は受付の棚から、部屋のキーを取り、カウンターに置いた。
「部屋は、7号室だ。」
黙ったまま、そのキーを受け取る星読み先生。
その背後で、一部始終見ていたメイドが、驚いた様子で声をあげる。
「7号室だなんて、ラッキーですね!」
キーを握りしめた星読み先生は、宿屋の主人にまだ何か言いたそうな顔をしていたが、すぐに諦めてポツリと呟いた。
「・・・だと良いけど。」
受付の横にある階段を登っていくと、宿泊の部屋が番号順に並んでいる。
二人は言われた通り、7号室へと入っていった。
メイドは早速、抱えてきた荷物を下ろすと、カーテンを開けて外の景色を眺める。
「古い宿屋ですけど、なかなか景色は良いですね〜。」
暖気《のんき》にしているメイドに、星読み先生が急かせるように言った。
「グズグズせずに、すぐに出かけるわよ。」
「え⁈ 出かけるって、一体どこへ?」
不意を突かれた顔のメイドが聞き返す。
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