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俺は、暗闇がすきだ。
ねっとりと纏わりつく闇に身を委ねていれば、何もかもが薄れて、どうでも良くなるから。
「……」
けれど、今日は満月。大きな丸い光源が、どれだけ遮ろうとも布団の上に横たわる俺のことを照らす。チラつく優しい光がうざったくて、無意識のうちに眉間に皴が寄る。
指で揉んで、強張りを解す。ゆるりと瞑った瞼の裏側に浮かぶのは、今日会ったばかりの幼馴染の顔だった。柔らかく頬を染めて、照れたみたいに困った顔をした、彼女。思い出すだけで、口の中が苦くなる。ぎゅうと唇を嚙み締める。
ねぇ、どうして。どうして?
“誰かの夢を、叶えること”
どうして、まっすぐに、そんなことを、口にできるんだ。
「……オマエは、こっち側だろう?」
だったら、そんな風に笑うなよ。幸せになんて、なるなよ。
鈍く痛みが走って、錆びた鉄の味がする。ぺろりと血が滲む唇を舌で舐める。
許さない、許さない、許さない。勝手に、しあわせになるなんて、そんなの、許さない。
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