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まずは、俺のことを少しだけ話しておいた方がいいのかな。
俺の家族は4人。平凡に暮らしてた。でも、それは俺が生まれるまでの話。
俺が生まれて平凡な家族像はガラガラと音を立てて崩れ去った。俺の風貌が、人間のそれではなかったからだ。
色素の薄い肌、金色の髪、琥珀色の瞳。それは、――……鬼子の風貌。
この世界に生きている人という生き物は二種類に分けられる。鬼ヶ島に住んでいた人の生き残りである「鬼子」と本土に住んでいた人を祖先に持つ「人間」だ。
桃太郎伝説、人間からしたら桃太郎は英雄だ。けれど、当時鬼ヶ島に住んでいた鬼子からすれば桃太郎は全てを奪い去った憎むべき相手。
鬼子と人間は互いに忌み嫌い合い、何度も戦い合ってきた。
その結果としてそれぞれの国防を務める組織――「鬼」と「鬼殺し」が出来上がった。「鬼」は当たり前に人間を殺すし、「鬼殺し」は当たり前に鬼子を殺す。それが、お互いの、正義だから。
俺の父親は人間だった。鬼殺しの幹部で、鬼ヶ島へ潜入することも何度もあった。その最中に俺の母親と出逢って、恋に落ちた。なんて安っぽいメロドラマ。けれど、人というのは愚かなもので、障害があればあるほど恋情は燃え上がる。
鬼子である母親は、全てを捨てて父親のいる本土へ向かった。髪を染めて、瞳にはレンズをはめて、人間のふりをしてまでも。
そうして俺の兄が生まれた。兄は人間の風貌だった。だから父も母も油断したんだ。
もうひとりも、人間の風貌に違いないって。
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