これから。

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私、鷺坂阿澄の彼氏は三年前に交通事故で下半身麻痺になってしまった。 彼氏はとてもバイク好きで土曜日の朝からバイク好きの友達と夜遅くまで走っていた。 休日なので二人で買い物や外に出かけたいと思ってはいたが私は彼氏自身の時間を大切にしていくとても素敵な彼女さんだと自分でも思う。 事故当日の日には天候は最悪の雨だった。 夜遅くになっても帰ってこない彼氏が心配で何度も電話をかけたが出なかった。 後に、彼氏のお母さんから連絡が来て救急車に運ばれて意識がない状態だったらしい。 私は必死で病院に駆けつけた、すると目を疑う光景がそこにはあった。 人工呼吸器をつけたまま心臓マッサージを受けている男性がそこにあった。 その顔は私が良く知っている顔だった。 私はその場で崩れ落ちて悲しみのあまり涙も出ないまま ひたすら、彼氏の回復を願いながら待っていた。 彼氏が目を覚ましたのは二日後の朝だった。 ゆっくりと目を開けた彼氏は私の顔を見たあと、 「ごめん、、」と泣きながら謝っていた。 私も「おかえり」と泣きながら頭を撫でて久しぶりに彼氏の温もりを感じた。 意識が戻った後、彼氏は徐々に食欲が湧いてきて活気を取り戻すことができた。 幸い、脳の後遺症の恐れもなかったが、下半身が動かすことができない「下半身麻痺」による車いす生活を余儀なくされた。 その後、彼氏は働いていた会社を辞めて二人でユーチューバーとしてお金を稼ぐことを決意した。名前は「アイテルジーズ」と名付けた 障害者と健在者のカップルということで新鮮なものだと話題にはされていたが 「障害者を利用するな。」 「金儲けのために彼氏を使っている彼女には酷い罰を!」 など、アンチのコメントが多かった。それでも私たちは動画の投稿を諦めなかった。 しばらくして、アンチのコメントも減るようになり、現在は登録者数15万人と公式から銀の盾を貰えるくらいの成長ぶりだ。 今日も何の動画を作ろうか二人で会議を始める。 紹介が遅れた、私の彼氏の名前は相沢隆。元は会社員であった男である。 「最近、なんかのウイルスのせいで外に出かけることが困難だな。 しかも、人が沢山集まる場所にはアンチコメントがつきそうだ。。」 隆が言った。 某人気ユーチューバーが渋谷で買い物企画を実施したさい、多数のアンチコメントが送られてきたネット記事を読んで隆は企画力が薄れたことを悩んでいた。 「そうだね、なるべく人がいないところで動画を撮ることか、普通に食べてみた!動画をやり続けるにしてもネタが尽いていくかも、、」 最近ユーチューバー界では主流になってきた、食べてみた!系の動画を毎日出せるほどの金銭的余裕もない、家賃も光熱費だって払わないと生活できないし、、 私はアルバイトを始めようかと思っていた。 二人は何度も頭を抱えて企画を考えた、私は半分頭が回らなかったが、、結果。 心霊スポットの動画を撮る企画を立てることにした。 私は、隆にアルバイトを始めようと思っていることを話すことにした。 「たっちゃん、私アルバイト始めようかと思うんだ。」 私は隆のことをたっちゃんと呼んでいる。 「え、毎日投稿って決めてるのにアルバイト始めたらファンの皆の要望に答えられない よ、毎日投稿頑張れば登録者も増えるって」 全く現実を見ない男だ。 ファンの答えるのも重要だが私たちのモチベーションだって大事なはずだ。 「毎日投稿してもしなくても視聴回数はあまり変わらない気がするんだよね」 「ほとんど俺が動画の編集をしているのに投稿頻度のこといちいち言わなくていいよね?」 少し強い口調で彼は言った。 そうだ、彼氏は大学時代にパソコン教室のバイトを始めていた経験があって動画の編集はほとんど任せきりだった。私も時々動画の編集も行っているが 割合は彼が8割で私が2割ぐらい、本当に申し訳ないと思っている。。 「私だって少しは編集手伝っているけど、もっと現実を見てって言ってるの、私たち一時期スゴイ話題になっていたけど、これから人気になっていくか分からないよ、一部の視聴者からはオワコンとか言われているし。二人で少しでもアルバイトしてさお金貯めようよ。生活厳しいよ、、」 私も少し強い口調で反論するが、少し辛抱さも交えて最後らへんには声が小さくなってしまった。 「二人?俺も入っているのか?」 何か言ってはいけないことを言ってしまったような感じがした。 「また、パソコン教室のアルバイトでもいいかなって思って、、すぐ近くのパソコン教室だってパソコンができれば誰でもいいって募集していたし」 すると、彼氏は小さくため息をついて 「いいか、その誰でもいいですよ、の中に障害者は含まれているのか?例え働けるとしても 車いすの幅でかなり人の邪魔になるし、子供たちからの視線とか気になる。 この前も電車に乗ったときなんかは満員電車でもないけど人が結構乗っていて。俺が入ってきたときに乗客の視線が邪魔だなっていう気持ちが伝わったくらい不審な目つきばっかだったよ。 障害者を大切にしましょうって昔から言ってるけどいざ働こうと社会に出てみると、無能扱いや陰口ばかりさ、気安く働こうなんて言わないでくれ、俺はその話には乗らない。」 凄い長い文章で説教でもされたかのような怒りが私にぶつかってきて涙が出そうになった。 「ごめん、ここまで怒るとは思っていなかった、、」 二人はそこから黙ってしまい、気まずい時間だけが過ぎていった。 それでも心霊スポットで動画を撮るためカメラを持って外に出かけた。 車で一時間半、人が一切通らないくらいの暗い道のりを渡り。トンネル前についた。 電灯の明かりはトンネル付近の一つだけで、誰が買うのか分からないくらい不気味な自販機が置いてある。虫の鳴き声も五月蠅いくらい響いていた。 「じゃ、撮るよ。」 私は彼氏に問いかけると「うん。」っと軽い一言で頷いた。 不気味なトンネルが目の前にいるのに二人はとても冷静であった。 私はカメラの録画ボタンを押した。 「どうもーー、アイテルジーズですっつ!さぁ今日はこちら! 心霊スポットに来ました!いやーー、不気味なトンネルが目の前に会って私の足がガクブルしていますが、どうですか、たっちゃん?」 「僕も足がガクブル中ですって、車いすに乗っているんですけどね!」 「なんやそれ!」 数時間前に喧嘩をしていたとは思えないほど息の合ったあいさつ。二人ともカメラを回した途端別人かのような切り替えでカメラを回し続けた。 このユーチューバーの特徴としては隆が自分自身のコンプレックスに対して軽くボケを入れ、鷺坂がそれにツッコミを挟むという方向で進んでいる。 このボケは隆自身が決めたことで 自分と同じような状況の人を少しでも元気にしたいという思いがあってのことだという。 二人は実況をしながらゆっくりと暗いトンネルの中を歩いている。 特に心霊現象もなくトンネルを渡り切ってしまった。 これでは動画的にも面白くないので違う場所で再度撮るようにした。 「さぁ、トンネル渡り切ったんですけど、何も心霊現象がなかったため 右奥にですね墓場っぽいものがあるとネットで調べて行ってみたいと思います!」 私たちは草が生い茂っている場所の墓場に就ついた。私たちの周りが墓だらけとまでいかないクオリティだったので撮り高は少し落ちてしまったが仕方ない。 「さぁ、違う場所に移しました。ここは墓場ですねさっきのトンネルよりも不気味な雰囲気が漂っているけど、どうしたのたっちゃん?」 隆が何か見つけたようだ。 「小さな虫がいますね。可愛いです!」 一つの懐中電灯を頼りに見つけたのは凄いことなのだが虫を見つけて楽しそうにしている隆を見て私は可愛らしい姿を見てほっこりしていた。 「ちょっと触ってみますね」 隆が虫をちょんと指で優しく触ってみると虫はおしりから光を放った。 すると、周りにいる無数の虫も同じように光を放つ。 まるで火垂るの墓のシーンにようにとてもきれいな眺めである。 「凄い、、」あまりの光景にこれ以上言葉が出ない。 ちゃんとカメラには抑えているが 内心、私と隆は動画を撮っていることを忘れたかのようにその光を眺めていることしかできなかった。 しばらくして、 「たっちゃん」 私の声で隆は振り返る。 「私、頑張るね」笑顔で言い切った阿澄には目から涙がスーッとこぼれていた。 「俺も、頑張る。」 二人は仲直りをした。すると隆が私の持っていたカメラを横取りし 「阿澄が泣いていますーー(笑)」私の泣き顔をうつした。 「ちょ、、やめてよーー!」 無数の蛍が光を放つ場所でふたりは楽しそうにはしゃぐ、とてもいい思い出になった。 これからのことは大事だけど、今を楽しまなきゃ、今がとても大事なんだ。 その後、私たちが上げた動画は奇跡の動画としてネットを騒がせ、急上昇ランキング5位の結果を得ることができた。
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