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話して見ると、好きな音楽や本が一緒だった。
そして彼女は驚く程にたくさんの世界中のあらゆる音楽に詳しくて、書物にも詳しかった。きっと幼い頃から良いものを聴き、眺められる家庭環境で育ったのだろう。
その日、一杯のスティックコーヒーを向き合って飲んだのが縁で、僕等はまたお茶でもしましょうと約束し合い、どちらかの休日のひとときを合わせて、頻繁に会うようになった。
僕は会う度に少しずつ彼女の人となりを知っていった。彼女は何を話すのもゆっくりで考えるように話した。それでもたまに言い間違っては小さなあんず飴の様な舌を出してごめんなさいと謝り、僕はそのたびに愛おしさを感じた。
彼女の家が隣町にあり、雷雨に降られて雨宿りをしたのは、ふらりと散歩に来ていて、可愛い猫を見つけて後をつけていたら見失って、道も見失っていたというやや天然なエピソードから始まり、職場は左から右にあらゆるものが飛んでいくぐらい早いスピードが必要とされる仕事をしていていつも身体は休まらないけれど、好きなタイプは僕だから、会っているととても癒やされるの、と言われた時は飲んでいたアイスコーヒーが熱く感じた。
彼女と話しているのが楽しくて、仕事にも身が入った僕は、良い感じに営業成績を上げて会社ではチームリーダーにも抜擢された。
「結婚してくれないか?」
出逢ってから一年が経っていた。
彼女は嬉しそうに頷いて、翌朝、トランク一つ持ってこの家に来た。
驚いた僕に彼女は言った。
「両親は僻地にいるの。地球の裏側みたいなところ。だから今度こっちに来られたら紹介するわ」
そう言って僕の首根っこに抱きついた彼女が何とも嬉しそうで、僕は彼女がいれば他は後回しでもいいや、と夢中で彼女を抱いた。
籍を入れてやがて小次郎が産まれた。
彼女に似て可愛い男の子で彼女も僕も溺愛した。
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