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「君に溺れた、悪魔の僕」
たまに、同じような悪夢を見る。
その夢には、黒い服を纏い、フードを目深に被って、鎌を持った男の人が出てくる。
そして、いつも決まって呼びかけてくる。
「こっちに、おいで」
*
紅い月の夜、自身に巡る悪魔の血が騒ぎ出す。全身を黒に覆われた醜い鳥から、黒い服に鎌を持った人間に姿を変える。
暗闇に紛れ、寝ている君の傍へ行き、夢の中の君にささやき、誘う。
「僕と一緒に来て」
夢という暗闇の中での君は、何も言わず、首を縦にも横にも振らず、ただただ、怯えている。怯え震えてるのに、泣くこともしない、その全部が僕を揺さぶる。
何度、君の夢に現れ、呼びかけたか。今宵こそ、今宵こそは、と何度も思い、早く僕の中に君を連れていきたくて、閉じ込めたくて、何度も鎌を振りかざそうとした。
この鎌で君の魂を刈り取りたい。だけど、君は僕の呼びかけに応えてくれない。君が僕に応えてくれるまで、君の魂を刈り取るつもりはなかった。
どれもこれも、君に惚れてしまったせいだ。
笑えるよね、僕は君に溺れた悪魔だ。
だけど、もう終わらせよう。今宵こそ、君を連れ去る。
「ようこそ、僕の世界へ」
そう言って、死神は君の心臓に鎌を振り下ろした。
*
魂を刈り取られた君は、もう人間じゃない。暗闇に落ちた君は、僕と同じ存在だ。
「宴を始めよう」
今までの記憶も自分が人間だったことも、全部忘れて、僕と陽気な音楽でダンスをしよう。
朝が来ない、終わらない夜の世界、君と僕だけの世界。二人きりの世界で、どこまでも楽しもう。
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