鉛筆と彼

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美術の授業でペアを組んでお互いの顔を描き合うことになった。椙澤自身は小学校の時から仲良しの多岐野と組むことになったが、一人残された佐々木が入ってきたので三人で組むことになった。 すると、美術の教科担任から「誰か梅原と組んでくれるやついるかー?」と声が上がり、教室の隅で一人ぽつりと木製のイーゼルの前に佇んでいた梅原に視線が集まる。辺りを見渡せば大概のやつは既にペアが組まれているし、残っているといえば椙澤のグループだった。 それを察した担任が「椙澤のとこ三人じゃないか、一人こいつと組んでやれ」と促してきたが、多岐野は佐々木に「お前、後で入ってきたんだから、お前行ってこいよ」と小声で腫れ物の男と関わるのを避けて、擦り付け合いをし始める。 一人でいても萎縮することなく堂々としている彼。静寂が生まれる教室で「僕は別に自画像描くので一人でも構いません」と言い張る梅原に辺りがざわめいた。椙澤はそんな不穏な教室の空気に耐えられずに、「俺が組みます」と手を挙げては無言でイーゼルとクロッキーブックを抱えると梅原の元へと向かう。 梅原と向かい合うようにして対角線上に椅子を持ってくると椙澤の行動で張り詰めた空気が収まり、担任も安堵の表情を浮かべていた。 ペア探し問題が解決すると担任が号令をかけると同時にデッサンの時間が始まる。椙澤は「よろしく」と梅原に声を掛けたが無視をされ、そっぽを向かれてしまった。 もしかして俺は梅原に嫌われているのではと彷彿とさせる。周りは仲間内で私語をしながら下手や上手いなどと詰っては盛り上がっているのに対して、梅原との一角だけやけに静かだった。 梅原に話しかけるのも、クロッキーブックと向き合い黙々と鉛筆を踊るように紙面上に滑らせている彼の邪魔をするような気がして、椙澤も真剣に描いてみるが絵心が全くない自分にやきもきする。多岐野や佐々木に見せたら絶対笑われるくらいの腕前なのは自覚していた。 あまりの我ながらの下手くそさに頭を抱えていると「見えないから顔上げて」と梅原に怒られてしまった。椙澤は背筋を伸ばし「はい」と返事をすると再び鉛筆を持って作業にとりかかるが、集中力はそう長くは続かず、そっと梅原の背後に回ると彼のクロッキーブックを覗いた。
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