眇目の青空

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 恭しい仕草で頭を垂れるアレッシーに、皆がため息をつきました。彼はどうやら、育ての親の祖母からずいぶんと高等な教育をされたらしく、所作が美しいのです。  足を開いて座ることはなく、スープを飲むのも音が立たず、立つときも座るときも背を丸めません。その凛とした振る舞いは、彼をさらに美しく見せていました。その振る舞いに、鉄工所に勤める女子たちから、マナー講座をねだられるほどです。彼女たちの中には、住み込みのメイドとして成功した者さえいます。  しかし、あまりに美しい顔立ちですから、女だと勘違いし『夜のお相手』にしたがる労働者が絶えません。ただしこのあたりの工場の多く人間は、たった一人の肉親のため、美しい顔に汗水たらして働く青年に同情していたため、幸いにも悲劇は起きていませんでした。  温かな人々が見守る中、アレッシーは盲目であることを示す白杖を頼りに、家へ帰ります。王都の貧民街にある多くの家と同様に、煤けて、ぼろぼろで、あちこちに穴が開いているような家でした。 「ただいま帰りました、おばあ様」 「お帰りなさい、アレッシー」  アレッシーが日雇いで働きへ出るのは、ひとえに祖母のためでした。祖母は足が悪く、外へは出られません。代わりに、家の中のことは何でもしてくれますし、アレッシーに様々な勉学を教えてくれます。  しかし、本当の、血がつながった祖母ではないと、アレッシーは分かっています。  本当の祖母は父方も母方も、アレッシーが生まれる前に亡くなっているのですから。 しかし、たとえ嘘だとしても、大切な祖母です。
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