眇目の青空

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「アレッシー、今日はパン耳のシチューですよ」 「やっぱり! いい匂いがしましたから」 「二、三日はこれを食べていけるでしょう。明日には干し林檎が仕上がりますよ」 「はい。楽しみです」  お金はろくにありませんが、二人の生活は静かで、満ち足りていました。  さて。  アレッシーが盲目となり、両親を失ったのは、青薔薇戦争と呼ばれる巨大な戦がきっかけでした。 青薔薇戦争の始まりは、大陸すべてを掌握しようと、さる王国が隣国へ攻め込んだことでした。 国を広げるためと言って、彼らはいくつもの国を蹂躙しました。  稀なる青薔薇のように、誰もが奇跡を願い、何も残らなかった虚無の戦争。  辺境ゆえになんとか生き残れたこの国は、あっという間に職を求める人間で富みました。  さらに幸運だったのは、多くの生死を最前線で見た王子が即位したことで、人々の争いをかきたてるような政策をとらなかったことでしょう。まずは食べるものを確保しようと、王子は様々な手を尽くしました。  そのおかげで、国にたどり着いた人々は、貧富の差はあっても、日々の食事にありつくことができました。空腹にならないだけで、起きない戦争や喧嘩があることを、王子は良く知っていたのです。 「アレッシー。美味しい?」 「はい。おばあ様のシチューは最高です」  くすくす笑うアレッシーの耳には、祖母が笑ったような、小さな呼吸の音が聞こえました。舌には滑らかなシチューと、ぼそぼそとしたパンの耳の食感が広がります。  アレッシーは自分がどこで生まれたのか、もう覚えていません。 気が付いた時には、この国で、祖母に手を引かれて生きていたのです。
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