眇目の青空

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 彼がこの世で最後に見たもの。それは両親の首をぶら下げて笑う、赤い髪に、紫色の目を持つ人間……大陸全土を掌握しようとした『王国人』の姿でした。 両目の視力を無くした彼にとって、祖母の手は真っ暗な目のうちの、何よりの道標でありました。  そんなある日のことです。 アレッシーは、珍しく、職業あっせん所で留め置かれました。  働き口がないのではなく、なんと『アレッシーを探している人が来た』と言うのです。 「はじめまして。君がアレッシー?」 「はい、そうです」  声が聞こえた方へ顔を向け、アレッシーは立ち上がってお辞儀をしました。優しそうな声の、おそらくは若い男性です。彼の声はとても張りがあり、わざわざアレッシーに手を近づけ、許可を取ってから握ってくれた手は、大きく節のある指を持っていました。 「僕はストラ、画家をしているんだ」 「画家? 絵描きの方ですか」 「うん。それで、君に是非、絵のモデルになってほしい」  思いがけない言葉に、アレッシーは戸惑います。画家という職業も、絵のモデルというものも、祖母から少しだけ聞いたことがありました。  ですから想像はできますが、まさか自分がモデルになるとは、思いもよりません。 「日雇い労働をしているのだろう? どのくらい働いてもらうか決めていないけど、僕に付き合って同じ姿勢を取り続けてもらうこともある。……どうだろうか。これくらいは支払うよ」  それからストラは、1日の給金やしてほしいことを、すべて口頭で提示しました。アレッシーが理解できるまで、何度でも、同じ内容を繰り返し話してくれました。
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